――この物語には【ある偉大なルール】が存在する。
それを一番早く正確に理解した読者に、その者の世界での、形ある栄誉を与える。
聖ミヒャエル協会
質問には一切お答えできません。
【そのたびに、永久なのです】
♒️聖ミヒャエル協会「聖典」第15章8行目より
――第1章―― ハテナしかないモノガタリ
【25時になりました】
【――モニタリングを開始します。オトウノリヨシ】
――子供の頃から、何か言葉にできない「恐怖」が自分の中にあって……その恐怖に名前があるのかを知りたかった。
だから――もしかしたら――いつか、その「恐怖」が――自分を迎えに来るんじゃないかって――そんなおかしな妄想を――していたんだ。
「なん……だ……ここ?それに……今、頭の中で……変な……機械音声が……」
開けた目の前に広がっていたのは、鮮やかに浮かび上がったビル群。どこかの街の夜景。
でも……俺は、こんな街に住んでいない。100知らない。
ボーン……ボーン……という鐘の音が響き、俺は振り返った。
そこにあったのはひどく奇妙な巨大な時計らしきものと、その針が示した「25」という数字。時計台……?
どうやら俺は時計台のような建物の展望台のような場所にいるらしい。
【ここは25時の世界。そしてこれから君の頭の中で響くのは変な機械音声だけじゃない】
「え……」
再び何か声が頭の中で響き、俺は頭をおさえた。
子供……おそらく少年の声が……『直接頭の中』に響いてくる!?
【ようこそモニターの皆さん。今から僕が喋る事はつまり……チュートリアル……っていう事なんだと思う】
「チュートリアル……って……ゲームでよくある……?」
――それに――"皆さん”ってなんだ?ここには俺しかいない。
【僕の名前はボイス。今モニタリングされている阿藤令由の担当者、という事になる。……阿藤って書いてオトウって読むのか。オトウノリヨシ。変わった名前だね】
――なんだか――妙に芝居がかった喋りをする子供だな――
それが第一印象だった。
【まぁ、そんな事より先に説明しとかないといけない事がある。最初からわりと緊急事態だし】
まるっきりマイペースな口調でボイスは言った。しかし続けられた言葉は確かに聞き捨てならなかった。
【今からその世界は少しずつ崩壊していく。その崩壊に飲み込まれても死ぬし、誰かに殺されても、もちろん死ぬ。生存ルートは2つだけ。その崩壊する世界の中でハンターを除く最後の1名になるまで生き延びるか。もしくは、ハンターを倒すか】
――ん?アレ?そのルールって――
【最後の1名になるか……もしくはハンターを倒した者には報酬が与えられる。それでこのモニタリングは終了】
……もしかして……と、俺はぼんやり思った。もしかして俺は凄くリアルな夢を見てるんだろうか。
その設定はまるで――
いや、そうだ……確か俺はアパートの部屋でそのゲームをしていたんじゃなかったっけ?
それで……気がついたら、その時の服装のままこんな場所にいる。
夢だとしたら……
【ちなみにこれは夢じゃない。いや、正確に言うと10分の1くらいの正解でしかないって事なのかな】
「……なんだそれ……」
【物事はつねにその一面しか見る事ができないって話だよ。主観を持つ者の限界さ】
……まるで一時期流行ったデスゲームものの漫画のような状況。
唐突で滑稽で……展開が雑なほど早い。
「ま、待った。もし夢じゃないとしたら……なんでいきなり俺なんだよ?
俺……俺は……運動神経も良く無いし……」
――今までの人生で、上手くいった事なんて1つもなかった気がする。
コミュ障で、人付き合いが下手で、馬鹿にされてばかりいて……
それで……俺は、人と付き合うのを諦めて……ゲームの、世界にいようと……思っていたのに。
【は。なぜかなんて……きっと考えても分からない。
人生なんてそんな事の連続だろ】