「アナタの国のお金……円と言ったかしら?
10億円でどう?」
……それはそれは。私はマナーとして笑顔を返す。
「ありがたいお話です。イルヴィーさんのお仕事は儲かってらっしゃるんですねぇ!」
イルヴィーの鼻がさらに大きくヒクついた。
その手に持っていた鎖を引く。
首輪に引きずられ、少女が苦しそうに顔を歪めながらイルヴィーの足元に倒れ込んだ。
「ねぇ、罪ってなんだと思う?」
「……罪?まぁ……悪い事、ですよね」
「アタシはビジネスライクに捉えているの。罪とは負債。返すべき借金。
アタシはそれを取引して人からブローカーなんて呼ばれてる」
「…………」
「取り分け最も儲けさせてくれるのは子供ね!
だからアタシは子供が大好きよ。
何も分かってなくて、簡単に罪を犯してくれる!
そんな子達の罪をあたしは“人別帳”に記録し、こうやって札をつけてあげてるの」
「あぅ……」
イルヴィーが少女の首輪をつかみ、無理やり立たせながら見せつける。
その首輪には確かに『咎』と書かれた黒い札が付いていた。
イルヴィーの長い舌が伸び、べろりと少女のほほをなめる。
「この子もトロくさくてイライラさせてはくれるけど、まぁそれなりにお金にはなってくれてるわ。
もう少し身体が成長したら別の仕事もさせられるし。……まぁ、このくらいの年齢が好きだっていう変態もいるけど」
「……やめろ!!」
それまでじっと黙っていたモーリが不意に声を上げた。「連れてきた者が合格なら、マリを解放する約束だろう!!その汚い手を離せ!!!」
そしてイルヴィーにつかみかかる。イルヴィーは冷ややかな目でモーリを見ていたが、何の躊躇もなくポケットからナイフを取り出しモーリの手へと深く突き刺した。
「ぐぅ……っ!」
「不当な暴力行為は罪よ、モーリ。アナタは便利な奴だけど考えが足りないし、うかつね」
「……マリを……離せ……っ!」
「そういうところよ。今この場でアタシを不愉快にさせる事自体が罪。それも分からないの?例えばそこの探偵や他の人にも影でアタシの悪口言ってない?
いい?力ある者がルールを作ってるの。そのルールに従わない事も、力ある者の機嫌を損ねる事も……重罪よ?」
――馬鹿なじいさんだ、短気を起こしても事態は解決しないだろうに。
「馬鹿なじいさんだ。短気を起こしても事態は解決しないだろうに」
せっかくなので口に出して言ってみた。
【……な……】
「イルヴィーさんが“合格”って表現をされたんなら――つまりそれは私が能力を示してイルヴィーさんが満足してからじゃないと契約完了にはならないって事でしょう。
イルヴィーさんはルールを作られ、それに違反した者を指摘して罰を与える事ができる……そんな素敵な力をお持ちのようだ。