背後で八神改が声を上げた。やはり説明が必要なようだ。
「……この身体自体の強度はあなた方とそう変わらない。
俺の本来の力の大部分はこの腰のベルトに封じられている。
現状では身体の一部分に意識を集中し、なんとかその部分だけ強度を高められる程度の事しかできない」
「あー……分かった。いや、正直言うとよく分からないけど、それは後にしようか。ここは私の出番のようだ」
八神改が前に出る。そして、その手に持った銃を毛無し男に向けた。
「念のため言っとくけどこの銃は本物だイルヴィーさん。さっき駐車場で盲羅の1人からいただいてね」
「……射撃が上手いタイプには見えないわよ?」
「それはアンタも一緒だろ?今のアンタの殺意ある発砲、この青年の足を狙ったわけでも無さそうだ」
銃を向け、にらみ合う2人。
――ありがたい。この一瞬の間ができればそれで充分だった。
俺は被弾していない右の脚部に意識を集中する。
そして――力を込めて床を蹴り、毛無し男に飛びかかった。
慌てた毛無し男が俺に銃を向けようとするが、もう遅い。
「――ライダ――パンチ!!!」
「ま、っぱっ!?」
俺の右拳が毛無し男の顔面に命中した。そのまま毛無し男は背後に吹き飛び、壁に激突する。
壁で跳ね返り床に転がった後……ピクピクと痙攣したが……死んではいないようだった。
脚部に意識を集中していた分、拳にそれほど力が入らなかったからだろう。
俺は近づき、その頭部を蹴り砕こうと足を上げる。
が――突然八神改が俺の身体を掴んで止めた。
「待った。……気持ちは分かるけど、私の見ている前で殺人はさせられないな」
「気持ち?これは正義であって感情による行動ではない」
「ん?あー……なるほど……そういう人か君は。とにかくやめてくれ。子供達だって見てるんだ」
「正義の行いを子供が見て学習するのは有意義な事のはずだが」
「君の考えてる正義がいつだって絶対に正しい正義とは限らないだろ。正義ってのは扱いが難しいんだ」
その言葉を聞き、俺は八神改を振り返った。
「……俺の力を封じた父達も同じ事を言った」
「?へー……なんかよく分からない事情が色々ありそうだけど、まぁ分かる気もする。
“正義正義!”って眉つり上げて頑張ってると、時々誰かとぶつかって、しなくていいケンカもするものさ」
絶対無二のものだから尊重し、実行しなければならないものではないのか。
しかし……ここでまた同じ事を言われたのならば無視はできない。
「では……その子供というのに聞いてみよう。担当者の君、答えてくれないか。俺がここでこの男を殺すのは……見たくない光景なのか?」
【……見たく、ない……】
先ほどと変わらずか細く……しかし明確な拒絶な声が脳内に届いた。
「……そうか、分かった。では、あちらの岩石生命体だけにしておくか」