「いや!君分かってないじゃないか!あっちもダメだったら!」
「なぜだ?岩喰いと呼ばれていたアレは人類ではない。あなた方を殺す可能性のある危険生命体だろう」
「……だけど、そこで伸びてるツルツル頭に利用されてるだけの被害者かもしれないだろう?
それと私は人類至上主義者じゃないんでね。一緒に酒飲んで気持ち良く馬鹿話ができる奴なら身体が岩だろうが翼生えてようが気にしないタチなんだ」
「……理解できない。けれど、あなたにはこの店の場所を含め様々な情報をもらい、そして先ほどは危機を救ってもらった。ここは従っておく」
俺がそう言うと、八神改は微妙な表情をして帽子を取り、髪をガシガシとかきまわした。
「なーんか……難しい人っぽいな、君は。それに助けてもらったのは私のほうだよ。
まぁ、それはひとまずいいか。ここから離れないとイルヴィーの手下がやって来るかもしれないし……」
騒ぎにより荒れ果てた店内では、かなりの客が逃げ去り机は倒れグラスや皿が床に散乱しているひどい状況だった。
近くに敵はいないようだが、確かにここに留まるのは危険かもしれない。
「なら……自分に付いてきてくれないか。自分達ももうここにはいられないだろう。
身を隠せる場所に行こうと思う。礼の代わりにはならないと思うが……ケガの手当をさせてほしい」
それまで事態を静観していた老人が、そう声をかけてきた。
モーリと言ったか。その隣に立つ少女も不安げな目でこちらを見ていた。
俺は撃たれた太股の部分に手を当て確認する。動脈層を傷つけてしまったようだ。
早急に止血などの処置をしたほうがいい。
「それはありがたい。お願いする」
「じゃあ、ひとまず私もそこに行かせていただこう。肩を貸そうか?君――ええと――名前はなんて言うんだっけ?」
「あなた方の言語では雷田雄大と名乗らせてもらっている。それと手助けはいらない。自力歩行は可能なようだ」
「了解。ライダ、ユウダイ……ね。ちなみに担当者の子は?他の子に比べてえらく無口だけど……名前はあるんだろう?」
【名前……ある……】
また微かな声が俺達の脳内に響く。
俺と八神改は、思わず顔を見合わせて、その次の言葉を待った。
……30秒後、ようやく続きの言葉が届く。
【……エコー……】
「把握した。エコー。君をよく表現している名前のようだ」
俺のエコーに対する返答を聞きながら、やれやれ……と、隣で八神改がつぶやいたようだった。
【――モニタリングを終了します】
【――モニタリングを開始します。テンショウナナミ】