「念のため聴覚に意識を集中して周囲の気配を探っていた。ここに近づく不穏な気配がある。……しかもかなりの数だ」
「それは……イルヴィーかもしれん。もし、そうだとしたら自分のせいだと思う」
モーリが不安げな表情をしたマリの肩に手を当てながらそう言う。その表情は苦々しげだ。
「イルヴィーの元から逃げ出して……無事に逃げ切れた者はいない。みんな連れ戻され、むごい拷問を見せしめに受けていた。
おそらく何かの手段で追跡できるのだろう。自分はマリのために奴と契約書を取り交わした。もしかしたらそれに何か魔法が仕掛けてあったのかもしれん」
「はー……まったく陰湿な野郎だ」
「――あなたのあの時の判断は、今でも正しいと思うか?」
ため息をついた私にユーダイは、そう訊いてきた。「ん?判断って?」
「あの時、あの男達を殺していれば……この事態にはならなかったはずだ。そうするべきだったのではないか?」
「あー……その事か。ははっ!悪いけど……正しいわけないだろって私は言うよ」
「……なんだと?どういう事だ」
驚いた表情のユーダイに、私は肩をすくめてみせる。
「自慢じゃないが、私はここまでもロクデナシな生き方をしてきたんでね。正しさにはあまり縁が無いのさ。そして、これからもたぶん間違え続ける。
でも……それが人生だろ?」
「……あなたの言っている事がよく分からない」
「昔読んだ小説にこんな言葉があってね。『間違いの無い人生なんて間違いだ』って。変な小説だったけど、その言葉だけは気に入ってるんだ」
「……間違いの無い選択をするべきではないのか」
「間違えない奴なんていないさ。でも、胸を張って生きていく事はできる。――それだけさ」
「…………」
――行こう、と私はユーダイをうながす。
モーリとマリにも。
「ひとまず10番ターミナルまで全員で行くしかないな。どうするかは行きながら考えよう」
ここまでの流れは阿籐君にも伝える事ができたはずだ。
あとは現地のアドリブになるが……彼の機転にも期待するしかない。
【……そろそろ、モニタリングが終わりそう】
「へぇ……そんな事も把握できるのかい。次に回る人とかも分かるの?」
【ううん、それは分からない。次にアラタにいつ回ってくるかとかも】
「寂しそうに言うじゃないか。心配しなくても、またすぐ話せるさ」
【あ、あたしは別に――】
【――モニタリングを終了します】
【――モニタリングを開始します。シラキコタツ】
「――たつ、こたつ!!」