私はスマホ通話を切ったフリをして、ポケットに戻す。そしてオールバックと阿藤君に向き直った。
「……やあ、阿藤君。なんだかもう、はじめましての気はしないな。もし良かったら私もヨッシーって呼んでいいかい?私の事もアラタでいいよ」
「いや……それは好きにすればいいけど……それより!」
「ん?」
「俺!あの事務所に戻る!今すぐ行かなきゃ!」
「んー……そうだねぇ……そっちの問題もどうしようかねぇ……いやはや、あっちもこっちも大変だ、まったく」
帽子を取り、私はぐしゃぐしゃと頭をかき回す。
考えるべき事が大渋滞だ、まったく。
確かにあちらも放置はできない……が……ひとまず白木さんは殺される事は無さそうだし、盲羅の連中が近づいてかき乱してくれたら時間稼ぎにもなるかと思ったんだが。
あそこには今ユーダイが向かっている。
時間さえ稼げば……って……まぁ、ユーダイに任せるのはそれはそれで不安な面もあるんだが。
「今確認とれたわ、近くにおったもんからの報告じゃが……魔法使いのガキがカチコミ入れよったらしい。って事は――わしらにゃ人質がおらんくなった……ちゅー事じゃわいのう?」
音もなくオールバックが懐から銃を抜き、かまえる。
「よせよ。そんな事してる場合じゃないだろ?みんなで協力して力を合わせれば道は開けるって……学校で習わなかったかい?」
「学校にゃ行っとらんし、習った事は一つ。世界はクソ。そんだけじゃわ」
「……で……?銃を突きつけて何をお望みで?」
「マリとかいうガキをこっちに渡せ」
オールバックは冷淡そのものの表情でそう言い放った。「あのガキが人質になるなら交渉の続きをしちゃるよ」
――はっはー……このバカ――
「探偵アラタが教えよう。クソっていうのは――」
「――そこのアンタよ、クソ探偵」
唐突にその甲高い声が10番ターミナルの広場に響き、私は殴りかかるのをやめた。
これは……なるほど……クソッたれと言いたくなる状況のようだ。
ターミナルにそびえ立つ幾本かの柱の壁からぞろぞろとイルヴィーの手下達が現れる。
そして……マリをおさえつけたイルヴィーがその中から現れた。
「アラタ……ごめんなさい……」
「……モーリじゃなく……マリを追跡してたって事か。変態め」
その可能性も考えてはいたが……これほど短時間で正確に追跡できるとは恐れ入った。
「商品管理よマヌケ。踊り子の服はアタシの支給。その服を着ている踊り子もアタシの持ち物。アタシは自分の持ち物は全てどこにあるか分かるようにしているの」
服か。何か発信機みたいなものがあったんだろう。