気絶して倒れたイルヴィーを確認しながら、私はヨッシーとマリを振り返った。
「……あちゃー……すまない、とっさの事で打合せができなかった。私が悪いんだが……その……マリの上からどいてくれないか?ヨッシー。また君にあらぬ疑いがかかる前に」
「うわっ!うわわっ!!ご、ごめ――わざとじゃなくて!!」
跳ねるようにヨッシーは折り重なっていたマリの上から身を起こした。「大丈夫……」と言いながらマリも起き上がる。
「――よーし。じゃ、張り切って逃げるよ君達。三十六計逃げるに如かずってね」
「いいけど……なんか……マイペースな人だな、あんた。敬語使うのやめるわ」
少し呆れたようにヨッシーが言う。私はニヤッと笑って返した。
「それでいいさ。こんな世界で年の差なんて何の基準にもならないしね。君も私に対して何かあったら遠慮なく言ったりやったりしたらいい」
「分かった。じゃあ、さっそく訊くけど……どっちに逃げようとしてる?」
「……どっち?そりゃあ――白木さん達のいる事務所だろ?こんな展開になったんならまずは白木さんやユーダイと合流しないと――」
「――いや、ダメだろ」
「え?」
その言葉で私は足を止める。
ヨッシーは真っすぐに私の目を見つめながら「そっちに行ったら死ぬ」……と言った。
「……………」
その瞳の奥に、何かただならないものの存在を感じた気がして――私は思わず言葉を失う。
「そっちに行ったらハンターから逃げきれない。奴が来る前にあの事務所に行ければ逃げきれたかもしれないけど……今はもう、無理だと思う」
「なぜそう思うんだろう。根拠があるのかな?」
「地形と距離と移動速度をイメージしてみたんだ。俺は今トラップも所持してないし、走りながらだとエイムも精度が落ちるから足止めができない。だとしたらゴールまでに追いつかれて詰む」
何かよく分らない単語。いや……これは確か……。
「あー……なるほど……君は……何とかってゲームが得意なんだっけ……」
「皇夜行動」
ゲームの価値観で判断して良いのか?……いや……こんな世界でこんな状況だからこそ、その感覚は正しいのかもしれない。
何より――何か――信じさせるものがある。それに――迷っている時間はない!
「……分かった。ならこっちだ!」
私は二人をうながし、10番ターミナルの柱の一つに走った。
「待てやぁああ!!おい、誰かそいつらを――」
流石に目ざとくヌマタがこちらに気づく。こっちに走り寄る何人かの姿を視界の端にとらえた。
急がないとマズい。
ボタンを連打するように押し、開いたその部屋へと転がり込んだ。