……ま、いいか。今は逃がしてあげよう。
【あれ?あいつら逃げちゃったけどいいの?】
「んー……この魔法を途中で放りだすと危なすぎるからね。まぁ、またすぐに続きはできるよ」
そう言ってボクは最後の一文字を空中に描ききる。
うんうん。我ながら今回も美しい。
「さ。しばらくはこれで出番無しだよハンターさん。くふふっ♪」
そして――発動のルーンを詠唱した。
「光栄に思ってほしいな。ボクにこれを使わせたのはあなたが3人目なんだよ?」
部屋中に”黒い稲光”が出現し、ハンターを包み込んでいく。
【わわわわわ!!ななななんじゃああこれわぁあああ!!】
ボクの担当者君はしてほしい反応をピッタリしてくれるなぁ。変な快感すら身体に走っちゃうよ。
「この周囲にある高次元物質……前世のボクの世界では単純に魔力って呼んでいたけど。それを位相変換させているのさ。その魔力は時空間のエネルギーに相互作用を引き起こし……その結果時空は曲率を帯び始める。
その曲率が一定を超えたら――」
【え、ごめん。もう何語かも分からん……】
「くっふっふ!いいよ。簡単に言うと、この魔法をかけられた相手は――時間が止まるんだよ」
【ま……マジで!?】
「マジで。ボクはこれをChronostasis(クロノスタシス)って名付けてる。強制的なステイシスフィールド……時間が止まった場所を作り出す……まさに正真正銘の魔法、だね」
そんな話をしている間にも部屋中を包んでいた黒い光は収束を加速させ――
やがて、ハンターは漆黒のシルエットとして固まり、そこに停止した。
まるで、その空間に突如黒い影絵が描かれたように。
【す……すげえ……ただの足止めで時間まで止めるなんて……】
「んー……流石にちょっと大人気なかったかな?でも、予想してたより少しだけ強そうだったんでね」
ボクはハンターに近づき、その姿をしげしげながめてみる。うーん……なんかあまりオリジナリティを感じないシルエットというか……面白味が無いというか。
「せっかくだし顔に落書きしたり変な服着せたりしてあげようか。くふふっ。ボクの勝利を分かりやすく形に――」
ごしゃっ。
そんな音が自分の中に響き渡り、視界が暗転した。