チラッとこちらに向けた視線に思わず少したじろぐ。
「この世界は――1から始まり、2で調和する。右手と左手、男と女、光と闇……みたいにね。それで調和がとれてるんだと。相手を見ながら自分を知る。相手を自分の鑑(かがみ)とする事ができる」
「ん……中国の陰陽思想みたいなもんかな?」
【陰陽思想?】
レコードにはちょいと難しかったか。
まぁ、今はそれを解説している暇はないし、後で自分で調べてもらおう。
「そのオンミョウシソウってやつの事は知らないけど……まぁ、いいさ。とにかく対になって補完して世界は完成されていく。それは物語になる。でも……鏡は、そこに別の道を作るんだとさ」
「……物語?……別の道?」
「そ。この世界は全て物語。たった一人で世界を知る事もできるし、でもそれだけではダメ。それを読む人が必要になる。そして……鏡は交わるはずのない物語と読み手を繋げる道になる……とか言ってたよ」
世界は物語。……まぁそんな哲学的な思考も聞いた事はある。
「わわわしわしが長年研究研究した真理真理真理を軽くまとまとめるなぁああ!!」
湯気が立ちそうな形相で怒るゼン教授をノーラ夫人は軽く笑い飛ばした。
「なーに言ってんだか!女なら誰だって鏡の魔力は知ってるさ。毎日それに向き合ってお化粧してるんだからね!はっはっはー!」
「うむむむむむ……」
【じゃあ……ウユとララはその鏡に関係した場所にいるって事……?】
あぁ……そういや、それはさっきゼン教授から聞いた気がするな。
「えーっと……今向かってる区画にあるんでしたっけ。その巨大な鏡貼りになっている不思議なエリアが」
「そそそそうそうだ。それそれが――あそこだ」
ゼン教授が窓の外を指さす。
そこには……他となんら変わらない……うず高く積みあがったゴミの山が……あるだけに見えるが……。
「よーく見てごらんよ」とノーラ夫人が言う。「ホラ……あそこだけ、全く同じ景色が二つ並んでるだろ?」
「……降りてみよう」
あくびをしているマリを連れて、バスから降りた私達はその山まで近づく。
なるほど……これは……言われないと分からない。
おそらく巨大な鏡貼りになっているスペースがあり、つまり右側に積みあがっているゴミ山は左側の景色を鏡に映しているだけのものらしい。
「これこれがわわわしが見つけ出したウユとララのけっか結界だ。君君達はあそこに行き行き中に入っていけばいい。そして……中で中で聞いた事を事をわわわしに教えて教えてほしいのだ」
「え……え?マジで?え……うーん……それってなんか……」