「いや……ダメ……だろ。……アレは……ダメ、だ……」
俺は思わずそうつぶやいていた。【え?】という脳内の少年の声にも今は応じている余裕なんか無い。
そのハンターとやらの姿を見た瞬間……俺の中の本能が全身全霊で狂ったように叫び続けていた。
”早く――逃げろ!”――と。
ハンターと呼ばれたそれは、まるで最初から知っていたかのように、当たり前に視線をこちらに向け――そのまま時計台に空いた穴からジャンプしてこっちに飛んでくる。
漫画やゲームでしか見た事がない力強すぎる放物線。ダァン!!――という激しい音と共に、それはたった1瞬で……目の前に姿を現した。
大きい……。2m半ばくらいまではある……おそらく大男。
おそらく、というのは……見えないからだ。
夜だから?いや違う。となりの少女の姿はハッキリ見えている。
なぜなのか……あと数歩という距離にまで来たのに……その全身が……ぼんやり黒みがかっていて……ハッキリ見えない……。
まるで……そこを見た瞬間に急激に視力が落ちでもしたかのように。
「……よーし!じゃあ……あたしが……」
「馬鹿言ってんな!!!」
「え――?」
俺が木刀を振りかぶった少女を突き飛ばすのと、何かが凄い勢いで横をかすめたのはほぼ同時だった。
見えなかった……が……もしかしたら……パンチ……か?
もし当たっていたら……。
その想像と……さらにそれ以上の何かが悪寒となって全身を包み、俺は身震いした。やはり――ダメ、だ。
「逃げようっ!!」
「え――ちょ――っ!」
少女の手を取って、強引に走り出す。さっき少女が駆け上がってきた階段を逆に今度は駆け下りる形となった。
「……ま、待ってよ!アレを倒せば――」
「たぶん……100無理だ。変な日本語だけど、正しい気が……する!」
言いながら俺は振り向き、佇んだままのハンターに銃を向けた。
リボルバーの中のエネルギーは充填されている。
やはりゲームと同じく時間と共に弾が回復する仕様なんだろう。
それを――撃った。6発全弾、ほぼ同時に。
光弾は先ほど蜘蛛人間に撃った時と変わらず真っ直ぐにターゲットに向かい、命中するのを確認。だが――
「当たった……のに……。めっちゃ頑丈……」
「違う」
俺は走りながら手短に答えた。
予感通りだ。
……当たった瞬間、さも衝撃があったかのように巨体が揺れていたが……ふざけんな。本当にキチンと当たっていたら、あんな反応程度で済むかよ。
たぶん、そもそも”当たってさえいない”……。
「つまり……ゲーム開始時の装備じゃ……絶対に倒せない設定……とか、かよ。たぶん」