少女は両手を頭上にあげ木刀をつかみ……その木刀が……空を……飛んで……いる……!?!?
時計台から宙を舞い、そのまま隣接していたビルへ――って……
「うあ……待って又三郎!ぶ、ぶつか――」
言うより先に俺達はビルの窓ガラスに激突し、派手な音をたてて割りながら――ビルの中に飛び込んでいく。
【……まぁ……最低限のチュートリアルにはなったのかな。じゃあ、健闘を祈るよ】
どこまでも他人事な……ボイスの声が頭に響いた。
【――モニタリングを終了します】
【――モニタリングを開始します。シラキコタツ】
「……あ痛たたた……」
もしかしたら一瞬気絶していたかもしれない。その電子音が頭に響いた事で覚醒した。
身体は……動く。少し左手に痺れを感じるけど……大したケガは無さそうだ。
あたしはバッと身を起こすと素早く辺りの気配をうかがう。
――うん――とりあえずは――大丈夫っぽいかな。
「なんなんだよ……それ……空飛ぶ……木刀?」
頭を振りながら、あたしの下にいた男がうめくようにつぶやいた。
あたしより頭1つ高いくらいのヒョロッとした人。黒髪で「3ヶ月に一回散髪屋さんに行ってます」くらいな髪型。
クラスにいたら名前を覚えられないタイプの人な気がする。
オトウ……ノリヨシ……だったっけ。
「うん、まぁ空も飛べるけど……要するに意志を持って動くあたしの相棒。又三郎っていうんだ。それより……そろそろ腰から手を離してくれないかな?」
そう言うと、ハッとした顔で慌てたように彼はあたしの腰から離れた。
うん……その反応を見る限り……嫌な感じはしないし……それに……年上だけど……“少年”なんだよね……。
未だに会えるかどうか分かんない“少年”にこだわってるあたしもどうかしてるけど。
「わ……なんだこれ……頭の中で別の視点が……見えてる……それに……声も?サラウンドってやつ?気持ち悪ぃ……」
彼は自分の額に手を当てながら、そう言った。
確かにあたしも最初は戸惑った。
でも、じきに慣れるはずだ。
なんというか……まるで記憶を鮮明に脳内で再生しているような感覚?
頭の片隅で、自分とは違う誰かの視点と声が再生されている状態。
今彼は、あたしの視点を共有しているって事なんだろう。