第1章

第1章7ページ「Junge」

少女は両手を頭上にあげ木刀をつかみ……その木刀が……空を……飛んで……いる……!?!?

時計台から宙を舞い、そのまま隣接していたビルへ――って……

 

「うあ……待って又三郎!ぶ、ぶつか――」

 

言うより先に俺達はビルの窓ガラスに激突し、派手な音をたてて割りながら――ビルの中に飛び込んでいく。

 

【……まぁ……最低限のチュートリアルにはなったのかな。じゃあ、健闘を祈るよ】

 

どこまでも他人事な……ボイスの声が頭に響いた。

 

【――モニタリングを終了します】

 

 

 

【――モニタリングを開始します。シラキコタツ】

 

「……あ痛たたた……」

 

もしかしたら一瞬気絶していたかもしれない。その電子音が頭に響いた事で覚醒した。

 

身体は……動く。少し左手に痺れを感じるけど……大したケガは無さそうだ。

あたしはバッと身を起こすと素早く辺りの気配をうかがう。

 

――うん――とりあえずは――大丈夫っぽいかな。

 

「なんなんだよ……それ……空飛ぶ……木刀?」

 

頭を振りながら、あたしの下にいた男がうめくようにつぶやいた。

あたしより頭1つ高いくらいのヒョロッとした人。黒髪で「3ヶ月に一回散髪屋さんに行ってます」くらいな髪型。

クラスにいたら名前を覚えられないタイプの人な気がする。

 

オトウ……ノリヨシ……だったっけ。

 

「うん、まぁ空も飛べるけど……要するに意志を持って動くあたしの相棒。又三郎っていうんだ。それより……そろそろ腰から手を離してくれないかな?」

 

そう言うと、ハッとした顔で慌てたように彼はあたしの腰から離れた。

うん……その反応を見る限り……嫌な感じはしないし……それに……年上だけど……“少年”なんだよね……。

未だに会えるかどうか分かんない“少年”にこだわってるあたしもどうかしてるけど。

 

「わ……なんだこれ……頭の中で別の視点が……見えてる……それに……声も?サラウンドってやつ?気持ち悪ぃ……」

 

彼は自分の額に手を当てながら、そう言った。

確かにあたしも最初は戸惑った。

 

でも、じきに慣れるはずだ。

なんというか……まるで記憶を鮮明に脳内で再生しているような感覚?

頭の片隅で、自分とは違う誰かの視点と声が再生されている状態。

 

今彼は、あたしの視点を共有しているって事なんだろう。

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