【あ、あたしは……ノイズ……です……】
……ノイズ……ね……。
「君達の名前ってさ……自分で決めてるの?」
【いえ……決められ……ました】
――ひどいな、センスとかデリカシーとか、色々。
もしかしたらこの子は自分の少し特徴的な甲高い声にコンプレックスを持ってるかもしれないのに。
「じゃ……なんとなくだけど……あたし君の事は”イズちゃん”って呼ぶね!」
【あ……は、はい……】
「いや、待ってほしいんだけど。俺……マジで100事情分かんないんだけど……君らは……その……コレがなんなのか……知ってるって事?」
ヨッシーが困惑した表情で眉をひそめる。
知っているかと言われたら――正直なところ――知らない。
でも”何をすべきか?”は知っている……ってところか。
そして、この世界ではおそらくそれこそが最も重要。
だから――あたしは話し始めた。
この25時の世界へ……なぜあたしが入り込んでしまったのかを。
――25時の世界。
いわゆるこの世とあの世の境、のようなものなのだと……死んだ祖父は言っていた。
可能性の集積地。世界の断層?なんか色々難しそうな言葉も使っていたけど、それはあんまり憶えていない。
要するに不思議世界。それだけ分かっていればあたしには充分だった。
心霊現象なんて、大体そんなものだし。
あたしにとって最も大事だったのは、その世界の伝説。
『25時の世界での勝者は、どんな願いも叶えてもらえる』――というやつ。
もちろんドラゴンの玉探しかよってツッコミはしたし、最初は信じていなかった。
けれど……あたしの”家”はその伝説の再現者がご先祖様だったもんだから……信じるも何も否応なく不思議世界があたしの常識になってしまう。
厭道流<エンドウリュウ>第12代宗家。
それがあたしに付いているやたら大げさな肩書きだ。
古流剣術の1つ……なんだけど……決定的に他と違うのはなんとビックリ”超常現象”を剣術に組み込んでいるという点。
ある儀式を経て使い込み続けた武具はやがて変化し「ツクモ」と呼ばれる神器にまで昇華する。
厭道流宗家の人間は代々1つずつそのツクモの武器を手にし、それを操る事で圧倒的な武力を誇ってきた……らしい。
もっとも廃刀令以降の近代社会でそんなクッソ怪しい流派の存在が許されるはずもなくて。
今では宗家とは名ばかりの親戚すらウチの実態を知らないしょぼくれた一子相伝の秘技なんだけど。
当然だと思う。こんな話、誰かにしたって……頭痛い子認定で終わりだ。
でも……リアルとして、あたしの手の中にツクモである又三郎がいるんだから仕方ない。
そして――だからこそあたしは25時の世界の伝説も信じた。
”どんな”願いでも叶えてもらえるという……非現実をさらに超えた非現実の存在を。