第2章

第2章1ページ「Detektiv」

――第2章――  ムホウのカクテル

 

――この物語には【ある偉大なルール】が存在する。

それを一番早く正確に理解した読者に、その者の世界での、形ある栄誉を与える。

聖ミヒャエル協会

質問には一切お答えできません。

【行いの罪、考えの罪、――われらのは、あるがゆえの罪】

 ♒️聖ミヒャエル協会「聖典」第18章7行目より

 

【――モニタリングを開始します。ヤガミアラタ】

 

……12分、次が27分、か。こりゃあどうやら決まった時間で回しているわけじゃなさそうだ。

 

【あれ?ちょっと――何も見えないんだけど――故障?】

 

そんな女の子の声が頭に響いてきた。ほほう……さっきの子とはこれまた違うタイプの子っぽいが……たぶん同年代……なぜ同年代の少年少女……?

 

――しかし、まずはそれよりも――

 

「うん、故障かもね。だとしたらコレ……いったん中止にして怪我人の手当とかしないかい?」

 

【……嘘。分かった。目つぶってるんでしょ】

「おおー!凄いね、正解!」

 

私はパチッと目を開いた。眼前に広がるのは無機質な打ちっぱなしのコンクリートとパイプ達。

立体駐車場の天井というのは、実にどこも似ている。たぶん、最低限の機能さえあれば特に見た目にこだわる必要はない――と、考えられがちな場所なんだろう。

 

「じゃあ、私は正解をキチンと伝えたんだからそっちも教えてくれないかな。さっきまで流れていた映像の彼ら……阿籐君と白木さん。彼らは今、ちゃんと無事なのかな?」

【そんなの……答える必要……ない、けど……】

 

「――けど?」

 

【モニターの人が死んだらそのモニタリングの終了電子音が鳴るらしいから――少なくともまだ生きてるって事だと思う】

 

「……なるほどね。どうも、ありがとう」

 

私は寝転がっていた駐車場の道路の上に立ち上がると、きちんとおじぎをして礼を伝えた。

それは見えてないのかもしれないが、こういった事は気持ちが大切だと思う。

 

【……変な人】

 

「よく言われるよ。でも、変な人と言われ続けるのも困るな。お互い自己紹介をしよう。私の名前は八神改。八に神様に改造の改でヤガミアラタって読む。君は?」

 

【レコード】

 

そっけなく少女はつぶやいた。

 

「本当の名前は?」

 

【言えない。……なんでそんな事聞くの?】

 

「気になった女性の事なら何でも知りたいと思うのが男の本能だからさ。君が大人で好みのタイプだったらとりあえず全身くまなく観察するねぇ」

 

【キモい。オヤジ丸出しの会話なんだけど。まだ30代でしょ?】

 

「うん、そう。残念ながらこの前30歳になったばかり。だから新米30代だし気持ちとしては20代のOBって感じだねぇ。まぁ小学生にはこの辺、わかんない感覚かもしれないけど】

 

【別に……っていうか……なんで……小学生って……】

 

――この反応は、本当に小学生のようだ。性的な話題に対する姿勢から見ても。

……なるほど……。

 

「たぶん、君の手元には私らのプロフィールだとかアレコレ資料があるんだろうけどね。そんなものなくったって……話し合えば分かる事は色々あるのさ。例えば――君が本当は心の優しい子で――このよく分からないゲームに巻き込まれた側の存在なんだろうなぁ……とかね」

 

【そ、そんなの……】

 

「……はっはー!いいよ、無理に答えなくても。それはこれから調査する事にする」

そう言って私は黒いハットをかぶり直し、胸元のネクタイをクイッと締めた。

やる気を出すときの……まぁルーティーンみたいなものだ。

 

【あ……コメント来た……何とかレイジ……って人か。『スゴ』……って……一言?なにこれ】

 

「――コメント?なんだい、それ?」

 

【あ……それも……言えない】

 

――まだ、よく分からないな。でも……何か大がかりなものが背後にあるのは間違いないんだろう。

 

「なかなか謎めかしてくれるじゃないか。その調子で私の知的好奇心を刺激し続けてくれよ」

 

【なんか……本当に探偵さん、って感じなんだね】

 

――年齢だけでなく、職業なども知られている――いや、もっと多くの事を把握されていると思っていたほうが良さそうだ。

 

「そう、八神探偵事務所の所長兼エース。名探偵アラタとは私の事さ。ま、一人でやってる事務所だけどね」

 

【儲かってないって事ね。自分で名探偵っていう探偵にロクなのいそうにないし】

 

――おやおや。どうにもストレートな物言いの子だが……まぁ、そのほうが話しやすかったりはする。

 

「ひどくダイレクトな推理だけど、まぁ一般的な評価としては間違っていない。でも、真実ってのはいつも一般的な評価とは少し離れた場所にあるものさ」

 

【そうなの?】

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