第2章

第2章6ページ「Abfall」

「1つ忠告しておく。……とても残忍で気の短い男だ。見た目よりもずっと。怒らせないように細心の注意を払ってほしい」

 

「そんな気はしてたよ。心がけよう」

 

肩をすくめて私はそう返す。

 

そしてモーリがステージ横の場所にたどり着き、そのカーテンをめくって一礼をした。

 

「希望していた者を連れてきた。紹介しよう。……八神改、だ」

 

うながされて私はカーテンの奥へと進む。

むわっとした香水の匂いが鼻を刺激した。

 

何か花の香りかもしれないが……どぎつい。

 

カーテンの奥には明らかな「接待用」としての空間が広がっていた。中央に置かれた丸テーブルも、その奥に置かれた大きめのソファーも、そこに座っている者の衣服もこれ見よがしな高級感を伝えてくる。

 

「……どもーお邪魔しまーす……」

 

そう頭を下げて入室した私にソファーに座っている男が笑顔を返してきた。

 

「いらっしゃい。まずはお酒でもどうぞ。お口に合うといいんだけど」

 

……高そうな赤いスーツに身を包んだ男。その頭には毛髪が綺麗なほどに存在しなかった。そり残しや毛穴すら見えない。

 

そのせいか、妙にヌメヌメした印象を与え……まるでつるんとしたゆで卵のようだなぁ、と私は思った。身なりが綺麗な分、ラッピングされたゆで卵感。

 

だが、細い目の奥にある濁った光や、唇の不愉快な動き方に憶えがある。

 

同じような顔をしていた男は蛇のように執念深く、人を殺す事を楽しむ男だった。

 

残念な事に、探偵なんて職業をしているとたまにこういった人間に出会う。

 

「あー……お気遣いどうも。じゃ、いただきましょうか」

 

私がそう返すと“ゆで卵”は右手に持っていた鎖をジャラン、、と一振りし……するとその鎖に首輪でつながれた少女がノロノロと机からグラスを取り、酒を注いで渡してきた。

 

【……ひど……】

 

……先ほど隣のステージで踊っていた少女のようだ。

最低限を隠した布地だけを身にまとい、暗く沈んだ瞳は焦点が合っていない。

 

「ごめんなさいね。どうも動きのトロい子で――」

 

男がそう言った時、モーリの表情が硬くなったのを見た。

 

「――まぁ、それはともかく歓迎するわ。アタシはイルヴィー。この街で”済手”って組織を仕切らせてもらってる者よ」

 

「……あー……お噂はかねがね。なんか私にご用があるとかで?」

 

「ええ。アタシは無駄が嫌いなの。無駄は罪だと思ってる。単刀直入に言うわ。ハンターの倒し方を探して欲しい。あなたに依頼したい用件はそういう事よ」

 

「なるほど、そりゃ分かりやすい。それがこのゲームの一番重要な目的らしいですしねぇ」

 

――ただ……と、私は少し大げさに首をかしげてみせた。「それは探偵の仕事なんですかね?探偵っていうのは――」

 

言いかけた私をイルヴィーが手を上げて止める。

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