「言ってるでしょ。無駄が嫌いなの。探偵がどんな職業かくらい知ってるわ。逆に色んな知識が足りないのはあなたのほう。忠告してあげる。分かっていない人間が、訳知り顔に話して時間を浪費するのも罪よ」
「ははぁ。それは失礼しました」
その謝罪の言葉に気を良くしたのかイルヴィーはニタリと笑って「じゃあ、説明するわね」と言った。
「アタシはこの25時の世界で行われる”逢”<オウ>という儀式に過去2回ベヴォーナーとして参加しているわ。そして2回とも勝者無しで終わってる」
「……勝者無し?ハンター以外で残る最後の一人になれば勝者になれるってルールもあるのに?」
「何人かがハンターに挑んで殺されるとね、そのあまりの強さに絶望して参加者が全員逃げ回るようになるのよ。それで時間切れになって終了」
「ほほう」
――なるほど、そういった展開もあり得るわけか。
【なんかダラダラしてそうというか……見てる側は退屈な展開っぽいね、それ】
……いや、そう言うなよ。命がけなんだし。
「そんな展開を見てきたから――盲羅〈モウラ〉は少し方針を変えたみたいね。見込みの無さそうな参加者を自分達で積極的に殺す方針に」
――なるほど、そういう事情だったのか。
「で、済手〈サイデ〉の皆さんは違う方針を取ろうと?」
「ええ――正直不毛だと思うし、無駄な労力がかかり過ぎる印象だからよ。
それよりもっと確実で、再現性が高く、しかも利益が大きい方法を選ぶべきでしょう?」
「……仮に“ハンターの倒し方”なんていう方程式?弱点?そんなものが本当にあるなら確実に勝者側に回れるし、その倒し方の情報を駆け引きに使えば勝者にも大きな貸しがつくれますねぇ。なるほど!」
答えを推測した私が先回りしてそう言うと、イルヴィーは嬉しそうに目を細め鼻をヒクヒクさせた。
【……顔がキモい】
イルヴィーにレコードの声が聞こえてなくて何よりだ。
「そう言う事!アタシはね、あのハンターの異常な強さには理由があると思ってる。
たぶん、隠されてる秘密があるはずよ。
それを……“探偵”に探してほしいの」
「……ただ、なかなかに雲をつかむような話ではありますねぇ。何か手がかりはあるんでしょうか?」
「あるわ。《道の観測者》ウユとララ。簡単に言うと占い師みたいな双子の女がいてね。あの2人は何かの情報を知ってるはず。
……ただ、どこにいるか誰にも分からないのよ。この街のどこかにいるはずなのに」
「ふむ……探偵の仕事らしくなってきましたね。確かに人探しなら得意分野だ。
でも、わざわざ私を呼び出すほどの話なんだろうかという気も……ちょっとしちゃいましたけどね。
たくさんいらっしゃるあなたの部下の誰かにその役を任せる事はできなかったんですか?」
私がそう言うとイルヴィーは黙り、思案気に唇へ指を当てた。
「……大工でない者に家を建てさせても非効率的でしょう?
アタシは無駄が嫌いなの。
だから専門家に任せるし……キチンと報酬も支払うわ」
「それはありがとうございます。いかほどいただけるんでしょう?」