それは岩のような……ではなく、そのまま岩の巨人だった。
巨大な岩が人の形をして、喋っている。
「……潰せ……。ここで今すぐあの3人をすり潰して、この汚っったない店の床にシミを増やすのよ。
特にあの黒いスーツの……みすぼらしいカラスみたいな男は絶対にここで殺せ。アレは生かしておけない」
目をらんらんと光らせるようにしてイルヴィーは岩巨人に伝えた。
……マジかよ。
私の鉄拳パンチも流石にアレには通用しそうに無い。
まったくファンタジー世界ってやつは勝手が分からなくて困る。
ドカァアアン!!――と派手な音をたてて、岩巨人の拳が床を叩き潰した。
間一髪、私はモーリとマリを壁際へと突き飛ばす事に成功する……が、これは……ヤバい。
そう何度も上手くかわせないだろう。
異変に気づいた客達も騒ぎはじめ……【BAR 無法のカクテル】は騒然とした雰囲気となった。
この騒ぎに乗じて逃げ出したいが、下手に動くとモーリ達が潰されそうだし……。
「上手く潰せたらお前の好きな鉄鉱石を食わせてやるわよ!岩喰い!!」
「お、オデ……う……うれしい……」
嬉しそうな顔をした岩巨人が両手を思い切り振り上げ――そして思い切りこちらに――!!
激しい衝撃音が室内に響く。しかし――
「……ん……なんだ……誰だい、君は?」
稲妻のような速さでその男は私と岩巨人の間に割って入り――そして、なんと平然とした様子でその岩石の塊とも言える拳を受け止めていた。
黒の革ジャンにジーンズ姿の青年が振り返る。
……その革ジャンに負けないくらい……なんというか……熱そうというか暑そうな顔だった。
あとベルトがダサいを通り越してヤバい。
その自己主張の激しすぎるやたら派手なバックルはなんなんだ。
彫りの深い顔立ち、鋭い眼光。
あと、革ジャンの下はなぜ裸なんだ、その割れた腹筋をそんなに誇示したいのか。
「もう大丈夫だ、安心しろ」
その濃い顔の青年は、真っ直ぐに私の目を見つめて言い放った。
「俺は、正義の味方だ」
「……あ……そ、そうなんだ……」
不覚にも。
この私が――思わずその程度の言葉しか出す事ができなかった。
【――モニタリングを終了します】
【――モニタリングを開始します。ライダユウダイ】
「――!モニタリング!君……モニターか!!」
目の前の男が驚きの声を上げる。先ほどまで視覚と聴覚を共有していた男、八神改。