【あ!やっと回ってきたじゃん。なんでこんなにオレだけ待たされるんだよ……って、あれ?ここって……】
ボクはカップを口から離し、テーブルに置いた。
「あぁ、ここは最初に阿籐さんと白木さんがハンターに追いかけられた場所だね。
ボクもここに最初からいたんだよ。でも……なんか面倒くさいから不可視の結界を張らせてもらってた。
あと探知不可も試しにかけてたから、モニタリングとやらが回ってこなかったのはそのせいかもね」
【え……モニタリングを……?そ、そんなのできるわけ……いや、お前こんな場所でなんつー余裕ぶっこいたくつろぎ方してるんだよ!】
その言葉に思わず僕はテーブルに目を落とす。
「余裕ぶっこいた……ってのは、どれの事だろう?
このマッサージチェアの事だろうか?それともミルキーな甘い香りと極上の甘みが広がるティーボンドのフレーバーティーの事だろうか?
もしくはついでに焼き上げて用意してみたサクサクのスコーンの事だろうか?」
【引っくるめて全部だ全部!!そこさっき激しい戦闘してた時計台の庭園だろ!?】
「そうだよ。まぁオープニングセレモニーとしてはそれなりだったし、その余韻に浸ってみたくて紅茶セットを取り寄せてみたんだけども」
【取り寄せ……?な、なんなんだこいつ……】
脳内で唖然とした少年の声が響く。
困った事だ。ボクはいつでもいたって自然な流れで事を進めているつもりなのに、周囲はボクに対して過剰なまでに驚いてくる。
こんな事はボクにとって何でもない事なのに。
「ボクの事は知っているんじゃないの?
名前は転生鳴浪<テンショウナナミ>。
そしてボクの経歴も知っているなら、もう少し理解を示してくれそうな気もするんだけど」
【……前世が……ファンタジー世界の大賢者?その前が世界を救った伝説の勇者?で、そのスペックを引き継いだまま世界有数の企業創設者の子供として現世に産まれて今は普通の高校生やってる……って、何?このチート盛りあわせ】
「粗い資料しか無いんだなー。龍の因子を継いでる事や神界の祝福を受けてる事も書いておいてほしかったけど」
しばし沈黙があたりを包む。
良い夜だ。
デタラメな星座を見る限り、ボクの世界の夜空とは違っているようだが――それでもこの紅茶を冷めないうちに楽しみながら眺める景色としては相応しい。
やがて担当者の少年は、ボクに対して彼なりの結論を出したようだった。
【……虚言癖、か。なんかイタいヤツの担当者になっちゃったな……】
失礼な結論を赦そう。
あの探偵さんも言っていた。罪は赦す事もできるのだから。
「まぁ、なんでもいいよ。ボクが本気を出したらこの“逢”って儀式もすぐに終わってしまうだろうし。それに――そもそもボクには他人の力を借りないと叶えられない願い事なんてのも無いし。だからここで紅茶を飲んでる事にする」
【あーはいはい。勝手にしてくれよ。……んだよ。だったら他のモニタリング見てたほうが楽しそーじゃんかよ。早く切り替わらねーかな】
「箸休めって言葉もある。ゆとりを持つ事は大事だと思うよ」
――が、そんな風情を理解できる者は少ない。
この担当者の子もそのようだし……周りを取り囲む不穏な気配も同様のようだ。
【あ……ホラ……群衆者……こんなところにいるから……】
結界の効力が切れた事でボクの存在に気づいたのだろう。