蜘蛛人間と称された醜い生き物たちはまるで角砂糖を見つけたアリのように群がってくる。
ふぅ……やれやれ……。
「ダェグ……ウル……ドルン」
ボクが呪符に向かい承認ルーンを吹き込むと、それは上空に燃え上がり――それから群集者達に降り注ぐ無数の火矢となった。
まさに1瞬で周囲全ての群衆者が炎上して消滅する。
【……な……こ、これ……】
――あれ?ボク、また何かやっちゃいました?
「あまり大げさにしたくないから控えめなやつにしたんだけど……弱すぎたかな?」
【な、何言ってんだよ!これ!すげえじゃん!!】
「あー……なんだ、褒められたのか。それはありがとう。呪符は作るのにわりと手間かかるから嬉しい。
ペンは雄の鵞鳥の右翼の三番目の羽から作らないといけないし、インクは清められた生きているコウモリの血を使うしね」
【コウモリの血……って……】
「魔術師の才能を勘違いしてる人が多いけど、魔術の基本は“いかに正確で質の良い道具を揃えるか?”なんだよね。
良い道具が強力な魔術を生む。
狂った角度や数字では唯一無二の正解は出ないって事」
【お前……もしかして……凄い奴なのか……?】
「君がさっき読んだ資料に書いてある通りの奴だよ。ちょっと足りてないみたいだけど」
【……すげぇ!すげぇじゃん!なぁ、お前だったらハンターにも勝てるんじゃねぇの!?】
「――楽勝だろうし、そんな終わらせ方は盛り下がるんじゃないかなーって気を遣ってるんだよ」
【そ……いや、流石にそれは言い過ぎなんじゃ……】
「そう思う?」
ボクは《投影》を意味する呪文を唱え、空中にこの街の3Dビジョンを映しだす。
そして、さらに《検索》をかけた。
……やっぱりね。
やや範囲の絞り込みは甘いものの、立体地図として表示されたこの街の一画に、しっかりと赤い反応が表示されていた。
【何これ?】
「さっき探偵さんのモニタリングで話が出てたでしょ?
《道の観測者》ウユとララって双子の話。
誰にも見つけられないとかって話になってたけど、たった今ボクが簡単に見つけちゃったーの図」
【え――す、すげぇえええっ!!すげぇっ!!何これ?どーやって?これも魔術?】
なんだろう?
あまりにもストレートな賞賛がなぜか心地よい。
……そう言えば今までボクが何かすると、恐怖や嫉妬……そうでない場合は打算が絡んだ声しか返ってこなかった気がする。
こういった無邪気な声って、いいもんだな。
「魔術じゃなくて、これは魔法。
この地に残る記憶自体にアクセスして該当の名前に関わる強い反応を抽出したんだよ。