わりと高位の魔法だから名前自体が偽名だったり、対抗呪文をかけてない限りこの検索から逃れる事はできない。
もっとエリアが広かったら難しかったけど、この街程度ならなんて事ないね」
【え……魔術と魔法って違うん?】
「だいぶ違うよ?
魔法ってのは世界全体に定められた強大なルールを利用したり変更したりする時に発生する力なんだ。
法律もさ、県とか市が独自に作っちゃう条令ってやつと、国のあらゆる法律の上に君臨してる絶対的な憲法ってのがあるでしょ?
分かりやすく言うとそんな違い」
【へええ……凄い!面白いな!憲法は授業で習ったよ!でもお前みたいな説明だったらもっと授業面白いのに!】
「くふっ……それはありがとう」
思わず自然に笑ってしまった。
営業用でなく、自然に笑った事なんていつぶりだったろう。
脳内に聞こえる少年の声も弾んでおり、心底ボクに興味を持ち始めてくれているようだった。
【オレ、エフェクトって言うんだ。退屈な時間になるかと思ってたけど……お前の担当者だったら面白くなりそう】
「それは光栄だね。くふふっ♪」
【なぁ……いっその事、お前……全部やっつけちゃえば?】
「ん……?どういう事?」
エフェクトと名乗った少年は急に息をひそめて話し出す。
――もちろん、そんな事しても全部聞こえてるわけだけど。
【だからさ……ハンターとかだけじゃなくって……なんか……この街にいる奴ら全員?悪い奴だけじゃなくて正義がどうとか言ってる奴も全員。お前なら軽くやっつけてこのゲーム、終わらせられるんじゃない?】
「へぇ……驚いた。その発想は……無かったな……」
口に出して、さらに驚いた。
“その発想は無かった”。ボクにそんなセリフを言わせた者が……今まで何人いただろう。
もしかしたら……これが初めてかもしれない。
――ボクが――善も悪も引っくるめて――全てを――倒す――?
【面白いと思わん?】
少年の声が熱っぽく誘惑してくる。
なぜかその言葉に……少し、高揚している自分が……いる気がした。
……面白い……か……。
再度夜空を見上げる。
何度こうして違う空を見上げただろう。いくつもの世界を旅し、いくつもの世界を救ってきた。英雄を演じてきた。
でも――それって面白かっただろうか。
ボクは――本当にそれをやりたいと思ってやってきたんだろうか。
「……正義の味方さんをやっつけちゃったら……ボクは悪役だね」
【オレさ、毎回絶対勝つって決まってるヒーロー番組、なんか変だと思うんだよね。そんなのつまんねーじゃん!
お前、こんだけ強いんだから――普通と違うもの見せてくれよ】
――普通。
ボクはこれだけ人を超越した存在になりながら――結局普通の枠でしか行動できてなかった――そういう事なんだろうか――。
そう考えた時、心の中の天秤が“ある方向”に傾くのを感じた。
「……面白い……かもね」
【あぁ!オレ、期待して見てっから】
ボクはマッサージチェアから立ち上がった。
庭園の端まで歩き、手すりから街を見下ろす。
いくつものビルが建ち並び、ネオンに彩られたこの街に――今存在する全ての者を――圧倒的な力で、ただ打ちのめし、勝つ。
まるで――魔王のように。
そう考えてみるだけで――全身を走る――奇妙な快感があった。
「……くふふっ♪……」
【――モニタリングを終了します】