あぁ――分からない事が多すぎる上にじっくり考えてる余裕もない――。
「まぁ、どちらにしてもハンターはここには来れん。この事務所はわりと特別製でのう。わしらが案内せんと外からは入れんようになっとるんじゃ。
この街にはいくつかそんな場所が存在しとる。たぶん、あの双子の女や群衆者の本体も似たような場所に隠れとるんじゃろう」
――ここは《ウタカタ》と呼ばれている街なのだと――連れてこられる道中で聞いた。
無数に立ち並ぶビルはその全てが何本もの連絡通路で繋がっており、住人は地上に降りる事なく、ビルを行き来して生活する。
この街にいる者は皆、より高い場所にいたがり、下にいる者ほど『地位が低い』者なのだと蔑まれる……とか。
色んな通路を渡り、どこをどう歩いたか分からなくなってしまったが……この事務所はたぶん、どこかのビルの最上階にある……気がする。
「い……色々教えてくれて……あり……か、感謝します……」
やっとの思いで俺がそう言うと……オールバックは口を歪めてにぃっと笑った。
……目が笑ってない。鬼怖いなんてもんじゃねえ。100友達になれないタイプ。
「もう一つ教えたろう。わしらぁ――いや、ベヴォーナーなら誰でも――その“おひかり”には敬意を払う。……が、それは服従とかじゃぁない。子分みとぉにホイホイ命令を聞く義理なんざないんよ。
わしらぁ――つまり、それを持っとる奴には対等で接しちゃる。それだけじゃ。分かるか?兄ちゃん」
「た……たぶん、なんとなく……」
「わしらぁ、その女の手当をして、兄ちゃんの知りたい情報も色々教えてやった。なら――わしらも、兄ちゃんにちょいとお願いをしてええわいのう……?」
――背筋に――冷たく濡れたタオルをかぶせられた気がした。
「……お願い?」
「まぁ、そうかまえんさんなや。大した事じゃないわぁ。これ……ぐいっと一杯……飲んでみてくれんや?」
そう言ってオールバックが机の下から、やや大きめのグラスを取り出す。
そこには……緑茶なんて素敵な名前がついていようはずもない……ぐちょぐちょでドロドロした緑色の液体が……
……あぁ……神様……その液体の中に何か気持ち悪い虫のようなものが何匹も蠢いているのを……見て、しまった……。
「……の(飲む)……や(嫌)……む(無理)……」
言葉にならない言葉を振り絞る俺に対し、むしろ優しい穏やかな口調でオールバックは言った。「大丈夫じゃけぇ。慣れると意外とこれくらいえぐみがあるほうがクセになる」
そして――なんと――それを――ぐびぐびと――暴れる虫ごと――呑み、ほした――。
「う……げ……うぐっ……」
恐怖とこらえた吐き気で涙目になる俺に、再度オールバックが別のグラスをすすめてくる。
手で口をおさえながら首がもげるほど左右に振った。
「ほう……ワレは……わしのすすめたもんが飲めん……言うんか?」
真っ直ぐにオールバックの眼光が俺を貫く。
呼吸もできなくなり、俺はあえいだ。
――なんで俺は――こんな事になってるんだよ?こんな奴らと一生関わらずに生きていきたいって思ってた――のに――