でも……俺によりかかったその身体は柔らかくて温かくて……鼻先をかすめる黒髪からは、いい匂いがして……
いや、でも……こんな状況で俺に何が……。
俺はそもそもコミュ障のゲーム廃人なんだ。こんなおっかない奴と交渉なんて無理ゲーに決まってる。
「不自由な自由とか言うたのぅ。でも、わしらに言わせりゃ……そんなのは誰だって一緒じゃあ。
……アマルガントっちゅう伝説の都市の話を知っとるか?美しい、恵まれた銀の都。でも……そのお綺麗な都市を造るために犠牲にされた醜い生き物達がおった。
笑い話よ。その美しい都はその醜い生き物達のけなげな献身で維持されていた虚構の産物じゃったとよ。なんのこたーない。どこでも一緒じゃ。素晴らしき世界はいつだって弱者からえげつない搾取をして形作られる。クソの世界よ」
オールバックは自嘲気味に唇を歪めた。
「その事に誰も気づかん。いや、気づいても知らんぷりしとる。
このウタカタって名前の街も、わしらも兄ちゃんも……同じなんじゃ。
しょせん限られた中からしか何かを選ぶ事はできん。
ホンマの自由は死んだ先にしかありゃあせん」
――あ――撃つ――
この手の奴って、なんかよく分からない長い話をドラマみたいにだらだら語った後いきなり撃ってきそう。
そう思ったが……でも、俺は……どうしたら……。
目が泳ぎ、思考も揺れる。
銃――ドア――逃げ――
太もも抱え無理重撃たれ危険死太もも髪天秤街窓虫無理呑む嫌情報報酬釣り詐欺髪型太もも起こし間に合わ無理諦め嫌願い木刀腕床痣合図太もも――
数秒の間に凄まじい量の情報と思考が……フラッシュのように頭の中で弾けた。
「ほんじゃ――」
「め!めめめめめ冥土の!み、みやげっ!!」
「はぁ?」
【はぁ?】
脳内のボイスの声とオールバックの声が見事にハモった。
なんだ?俺、何言ってるんだ?でも――
俺は夢中でまくしたてる。
「こ、こんな場面で悪そーな人がトドメ刺す時!必ず冥土の土産で情報くれるじゃんか!ま、ま、まだもらってない!!」
「な……な、なんじゃそら……いや……うーんん……」
オールバックはアゴに手をやり、しげしげと俺を見た。
「なーんか……兄ちゃんはいちいち気持ち悪いんじゃけど……妙にクセになるのう、その気持ち悪さ」
しばし目を泳がせた後……オールバックは「まぁ、ええか」とつぶやいたようだった。
「……ええよ。じゃあ言うてみいや。わしらから何が聞きたい?」
ギリ……次に繋がっ……た?
しかし、どっと俺の全身から冷や汗が吹き出た。いや、繋げても次どうするんだよ、これ?
何訊けばこの状況をひっくり返せるんだ?いやいや無理無理100無理。
硬直したまま頭脳だけがフル回転してる俺にオールバックが「ん?」とうながす。
――何を――何を――何を――
それは自由という名の牢獄。
俺が次に何を口に出しても自由。