阿籐令由。……思っていたよりもかなり頭のキレる子だ。
あの怯えた様子も演技だったに違いない。
『ふぅん……じゃあ聞こうかい。耳よりな情報っちゅうんはなんね?』
「せっかちだなぁ。それこそ耳よりな情報なんだから耳を寄せに来てもらわないと教えられないさ」
『……電話してきたっちゅー事ぁ……アンタ、どうやらこの兄ちゃん達を助けたいんじゃろ?その兄ちゃん達の境遇はわしらの一存でどうとでもなるんじゃが』
「そりゃちょっとした勘違いだな。別に私は心優しい正義の味方じゃない」
――横でユーダイが何か言いたそうな顔をしたが、目くばせでおさえた。まぁ、落ち着いてくれよ。
駆け引きは探偵の仕事だ。
ここで泣き所を見せるとそこにつけ込まれるだろう。そういう相手だと思うし……そんな相手との交渉は正直慣れっこだった。
「私はその2人に利用価値があるかと思って電話したのさ。どうもこっちの都合にその2人の手が必要になりそうなんでね」
『……そっちの都合?』
「あぁ、実は……ハンターの倒し方が分かりそうなんだ」
『……ほう……そりゃ凄い』
まるで無感動な様子で声が返ってきた。やはりそう簡単に揺さぶれる相手では無さそうだ。
が……こちらの出方をうかがう気配から見て……だいぶ食いついてはきてる。
『で……?アンタの言うそっちの都合とやらになんでこの2人が必要なんかのう?』
さてさて……ここからが勝負だ。
「ハンターの倒し方を知ってるウユとララが隠れてる場所をこちらは特定してる。が……そっから先が困った事になっていてね。どうもその場所に立ち入るには《おひかり》が必要らしい。それにウユとララさんは女性らしい慎みを持ってる方のようで……?男だけでも入れてもらえないみたいなんだ。だから、その2人に協力してもらいたい」
【え……そうなんだ!こんな短時間でそんな事まで……】
いやいやレコード、すまない。後で説明するけど、ほとんど嘘さ。
が……ウユとララを今まで誰も発見できていないなら……私がテキトーな設定をブチ上げても信憑性はつく……気がしたんだが……。
しかし――スマホの向こう側からは嘲笑が低く響いた。
『くくく……そりゃちいと厳しかろうよ探偵さん。そんな都合のいい話を誰が信じるんじゃぁ』
「そんな都合の良い話はそっちにとっても都合が良いんじゃないのかい?ハンターの倒し方を知るのは……あんたらにとっても大きなメリットのはずだ」
『……いずれにしても半分じゃのう』
「半分?」
『あぁ。全部アンタの話に乗っかる事はできん。幸いここには2人おる。そんでぇ……どーやらアンタもこの兄ちゃんも女の子を見殺しにはできん素晴らしき精神の持ち主のようじゃけぇ……兄ちゃんだけなら解放してもええで』
「いや――」
『女が必要とか言うんなら別にそっちにも誰かおるじゃろーが。マリとか言うたか?じいさんの可愛いがっとる子は』
スマホから漏れた声が聞こえたらしい。マリが目をぱちくりさせてこちらを向いた。
なるほど……向こうも……こっちの状況をある程度は把握しているか。
『それに――ここの嬢ちゃんはイグラムールの毒も回っとる。どっちにしてもそっちで何か手伝える状況じゃなかろうよ』