「…………」
――仕方ない――か。
「分かった。なら、とりあえずそういう事にしといてもいい。が……どうしても必要になったら無理にでも手伝ってもらうし……それまでその子の身柄は丁重に扱う事だ。最低限のマナーも守れない奴と取引するつもりはない」
『くく……ええよ、約束したる。で?双子の女の居場所は?』
「最初に言ったろ?耳を寄せに来いって。待ち合わせをしよう。そこに阿籐君を連れてきてくれ。阿籐君と《おひかり》を確認したら――場所を教える」
『そりゃあ一方的な条件じゃのう。罠かもしれんし、先に情報の裏付けくらいもらわんと動く気になれんで』
「罠?そっちのほうがずっと人数いるだろ。どう考えてもこっちが不利なのを分かってもらいたいねぇ。そっちは人数そろえて銃持って来ればいい。私達が変な動きもできないように目を光らせながら、ね」
『――場所はこっちが指定する。西丙号ビルの《10番ターミナル》。そこのじいさんに聞きゃ案内してくれるわ。時間は今すぐ。そのまま来いや。じゃあの』
プツッ……という音をたてて、通話は切れた。
やれやれ、だな。私はスマホをポケットに戻すと、手短に周りにいるみんなに事情を説明した。
モーリの隠れ家……ホテルの1室、といった感じだが、数人が集まって話せるくらいの広さはある。
幸い応急手当に必要な道具も食糧などもあったので、私達は軽く一息つけていたところだった。
どうやらこれからまた忙しくなりそうだが。
「――じゃあ……アラタは、そこに行くの?……また危険な場所に?」
心配そうな顔をするマリに私は笑いかけた。
「心配ないさ。軽く話し合いをしてくるだけだ。マリはここでのんびり待ってればいい。ただ……ユーダイにはしてもらいたい事がある。足は?いけそうかい?」
「問題ない。自己治癒に意識を集中していた。完治とはいかないが、戦闘もできる」
「そりゃ良かった。マリも応急手当ありがとさん。助かったよ」
「そんな……これくらい……」
【ふーん……かなり打ち解けてるじゃん……】
不意になぜか少し不機嫌そうなレコードの声が割り込んできた。
「……ん?」
【なんか……探偵さんって……】
「いやいや“アラタ”でいいよ。そっちも私から”レコードさん”だとか呼ばれたくないだろ?」
【……アラタって……無駄にコミュ力高いよね】
「え、そうかい?っていうか無駄って事もないと思うが……」
突然誰かと話し始めた私にマリが不思議そうな顔をする。「さっき説明したろ。レコードが話かけてきてるのさ」と言うと「ああ!妖精さん!」とマリの顔が笑顔になった。
頭の中の妖精。……まぁ、そんなとらえ方でも間違いではないかな。
モニタリングが回ってない間に色々話が進んでいる事がレコードには不満だったのかもしれない。
が――ここで機嫌を損ねられても困る。
「まぁ、私のコミュニケーション力がどの程度のものかは知らないが……実際のとこ、ここから先は私より君の力が必要なんだよ、レコード」