第3章

第3章10ページ「Fehler」

「念のため聴覚に意識を集中して周囲の気配を探っていた。ここに近づく不穏な気配がある。……しかもかなりの数だ」

 

「それは……イルヴィーかもしれん。もし、そうだとしたら自分のせいだと思う」

 

モーリが不安げな表情をしたマリの肩に手を当てながらそう言う。その表情は苦々しげだ。

 

「イルヴィーの元から逃げ出して……無事に逃げ切れた者はいない。みんな連れ戻され、むごい拷問を見せしめに受けていた。

おそらく何かの手段で追跡できるのだろう。自分はマリのために奴と契約書を取り交わした。もしかしたらそれに何か魔法が仕掛けてあったのかもしれん」

 

「はー……まったく陰湿な野郎だ」

 

「――あなたのあの時の判断は、今でも正しいと思うか?」

 

ため息をついた私にユーダイは、そう訊いてきた。「ん?判断って?」

 

「あの時、あの男達を殺していれば……この事態にはならなかったはずだ。そうするべきだったのではないか?」

 

「あー……その事か。ははっ!悪いけど……正しいわけないだろって私は言うよ」

 

「……なんだと?どういう事だ」

 

驚いた表情のユーダイに、私は肩をすくめてみせる。

 

「自慢じゃないが、私はここまでもロクデナシな生き方をしてきたんでね。正しさにはあまり縁が無いのさ。そして、これからもたぶん間違え続ける。

でも……それが人生だろ?」

 

「……あなたの言っている事がよく分からない」

 

「昔読んだ小説にこんな言葉があってね。『間違いの無い人生なんて間違いだ』って。変な小説だったけど、その言葉だけは気に入ってるんだ」

 

「……間違いの無い選択をするべきではないのか」

 

「間違えない奴なんていないさ。でも、胸を張って生きていく事はできる。――それだけさ」

 

「…………」

 

――行こう、と私はユーダイをうながす。

 

モーリとマリにも。

 

「ひとまず10番ターミナルまで全員で行くしかないな。どうするかは行きながら考えよう」

 

ここまでの流れは阿籐君にも伝える事ができたはずだ。

 

あとは現地のアドリブになるが……彼の機転にも期待するしかない。

 

【……そろそろ、モニタリングが終わりそう】

 

「へぇ……そんな事も把握できるのかい。次に回る人とかも分かるの?」

 

【ううん、それは分からない。次にアラタにいつ回ってくるかとかも】

 

「寂しそうに言うじゃないか。心配しなくても、またすぐ話せるさ」

 

【あ、あたしは別に――】

 

【――モニタリングを終了します】

 

【――モニタリングを開始します。シラキコタツ】

 

「――たつ、こたつ!!」

 

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