誰かの、やや必死に呼びかける声が――あたしの意識を呼び起こしてくれた。
「……ん……あ、ヨッシー……」
「いや……『あ、ヨッシー』じゃねえって……」
文句を言いながらも、心底ほっとした顔でヨッシーは息を吐く。
いつの間にか寝てしまっていたみたいだ。
うわ……寝顔見られるとか……あたし、よだれとか垂らしてないよね?
口元を確認しようとして……あたしは両手を後ろ手に縛られている事に気づいた。
あ――そうか――ここは――
そうだ……ここは盲羅の事務所で……あたしは手当を受けた後、寝てしまったのか。
ソファーの上に身を起こすと、周りでは慌ただしく盲羅達が何かの準備をしているようだった。
「傷……大丈夫か?」
「うん、平気。あたし実はちょっぴり特異体質で人よりケガの治りが早いんだよね」
「そうなのか……?まぁでも……良かった……」
ヨッシーは軽く微笑みかけ……しかし真面目な顔に戻った。
「……あのさ。起きたばっかで状況わかんないと思うけど……俺、今からあいつらと一緒に探偵さん達に会いに行く事になったんだ」
「え?なんで?」
「――えっと――時間ないから概略だけ話すな?つまり――」
大急ぎで話された内容は、ちぐはぐで……でも、まぁ、なんとなくは分かった。
それにしても、こんなヤバい事務所の真ん中のソファーでひそひそ話してるあたし達はあからさまに怪しかったけど、周りを歩き回る男達は何も気にしていないようだった。
むしろ無視しているようにも見える。
それに、あたしに発砲した一番ヤバそうなあのオールバックの男がいない……。
その疑問についてもヨッシーは手短に説明をしてくる。
「――というわけで――たぶん――俺と探偵さんがあいつらに分からない方法で繋がっているのを警戒しているんだと思う。
あいつらは今、俺に聞こえない場所で何かの相談してるんじゃないかな……」
「そっか……ごめん、ヨッシーには助けられちゃったんだね」
「いや……俺じゃないよ……」
そう言うとヨッシーは、なぜかうつむいた。
「俺……俺は……なんか本当にたまたまって感じで……。ほとんど全部、あの探偵さんが話をつけてくれたんだ。
凄いよ……。俺は……今も……ただ、連れて行かれるだけで……こたつをここに残していくし……」
うつむいたその表情は、なんだか怒られた子犬みたいな様子で……。
なんだろう。
こんな時にそんな事思うのも変なんだけど。
――可愛いなぁ、と、思ってしまった。
「でも、今もあたしを起こしてくれたんじゃん。こんな可愛い女の子が無防備に寝てたらどんなイタズラされたか分かんないもんね。ありがと」
「自分で可愛いとか……言ってんなよな……」