第3章

第3章15ページ「Geschicklichkeit」

モーリが通路の先で声を上げ、俺と八神改はそれに従った。

 

「――ま、いい。ひとまず必要な事からやってしまおう。いいかユーダイ、今君の視覚と聴覚は白木さんと繋がっている。だから今から君を通して彼女に話しかける」

 

「分かった」そう言うと、八神改は笑顔になって目の前に顔を持ってきた。そして、やや大げさな手振り身振りを交えて話しかけてくる。

 

「やー!白木こたつさん!大変だったね。君は寝てたから私の事を知らないと思うんだが……私は探偵だ。そして敵じゃない。君を助けたいと思っている。というか今から助ける。今から伝える事をよく聞いてほしい」

 

「別に声だけで良いのでは?走りにくいし、前からどいてほしいんだが」

 

「探偵アラタが教えよう。女性には第一印象が大事なんだよユーダイ。形は大切なのさ」

 

「では、なるべく手短にやってくれ」

 

「……というわけで、我々は今しつこく絡んでくる悪党をぶっ飛ばしながら待ち合わせ場所に向かってる。待ち合わせ場所には阿籐君と盲羅達が来るはずだ。

……が、今から私達は二手に分かれる。私とマリという女の子で待ち合わせ場所に向かい、今モニタリング中のユーダイとモーリというご老人が君の元に向かう」

 

「マリはアラタと行っていいの?」

 

横を走っていた少女が問いかけてくる。八神改はそちらにも笑顔と大仰な手振り身振りで返した。

これを走りながらとは……器用な動作だ。戦闘に使える技術では無さそうだが。

 

「いい質問だマリ。むしろ……たぶん、私達が行く場所のほうが安全なのさ。イルヴィーがモーリを追跡しているなら、私達の事は見失うはず。

だから我々から引き離す目的も含めてユーダイとモーリには白木さんのいる場所に向かってもらう。ユーダイ、ルートは大丈夫だろう?」

 

「問題無い。場所はさっき把握した。もっともあなたの推理とやらが当たっていればの話だが」

 

八神改はモーリにいくつかの質問をし、盲羅の事務所の場所を推測した。

その論理に矛盾は無かったが……絶対確実という話でもない。

 

「間違っていたら私が何とか交渉して盲羅から聞き出すさ。モニタリングが繋がればその情報も共有できるはずだ」

 

「了解した。では、俺のモニタリングが続いている間になるべく推測された場所へと近づいておく事にする。それでこちらの状況はあなたにも伝わるはずだ。

エコー。……聞いているんだろう?教えてくれ。俺のモニタリングはまだしばらく続くのか?」

 

俺がそう問いかけると、10秒ほどの沈黙の後に声が返ってきた。

 

【……続く】

 

「ありがとさん、エコー!じゃあユーダイそっちはよろしく頼む!

行こうか、マリ」

 

そう言って八神改は、十字路で俺に手を振り、また別のビルへと続く連絡通路に少女を連れて走り出した。

 

それと別方向の連絡通路を走りながら、俺は横のモーリへと目を向けた。

 

「これを聞いたら八神改は怒りそうだが……あなたには伝えておく。俺はあなたを守るつもりがない」

 

【……え……】

 

意外にも、モーリは薄く笑って「それでいい」と言った。

 

「別に守ってもらおうとは思っておらんよ。自分は老い先短い身だ。マリを救ってもらった時点であんた方には借りができた。それを返したくて今こうしているだけだ。足手まといになる気はない」

 

「俺は俺の正義のために行動している。その事で何かを貸しに思ってもらう必要はない。そして今後も正義のためにしか行動しない」

 

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