第3章

第3章16ページ「schwach」

【正義……正義……?】

 

脳内でエコーが何か訴えかけるように言葉を出していた。

 

今までになかった反応だ。

 

「そう、正義だ」と俺は言う。モーリに?エコーに?あるいは自分自身に向かって言ったのかもしれなかった。

 

「正義とは……『種の繁栄に影響するかどうか』。それを基準に判断すべきだと考えている。人類にとって、一番正しいことは人類という種を繁栄させる事のはずだ。だから種の繁栄を脅かす存在は悪だ。それを排除する事が正義のはずだ」

 

「……ふふ……」

 

モーリは笑ったようだった。

 

「なるほど。だから……種の繁栄に貢献できない老人は守る必要がない、という事か」

 

「そうだ」

 

「不思議だな。そこまで真っ直ぐに言われると……腹も立たん。昔、貧しい国では病人や老人を口減らしに毒殺していたとも聞いた。

種全体という話なら、それは正しいんだろう。そもそも自然界では弱肉強食が摂理だ。弱い存在は淘汰される」

 

【……そんな正義は……クソだ……】

 

「――なんだと?」

 

俺は驚き、足を止めた。エコーが積極的に発言した事にもだが……その言葉に大きく驚いていた。

 

「どうした?」とモーリが振り返る。

 

「……エコーが……俺の担当者が……俺の言う正義を……クソだと言った」

 

「そうか。ならクソなのだろう」

 

「……待て、さっきあなたは俺の話を理解してくれたのではなかったか?」

 

「理解と肯定は違う」

 

「……肯定は、できない、と?」

 

「できんな。自分は酒が好きだ。煙草も。マリと暮らすようになって煙草はやめ、酒もひかえるようになったがね」

 

「俺は今酒や煙草の話はしてないはずだが?」

 

「どちらも人体には有害とされている。人類という種の繁栄を考慮するなら悪になるだろう」

 

――俺は数秒考え――返答した。

 

「その通りだ」

 

「だが自分にとってアレは古い友人でな。つき合いをやめる気はない」

 

「それはあなた方の科学でもただの“依存”なのだと判明しているはずだ」

 

「誰でも何かに、あるいは誰かに依存している。そうしないと生きていけない者もいる。もっとも――アンタに言わせたらそれは《弱者》なのかもしれないがね。

そう……アンタみたいに自分の価値観で他者を裁く人間が、どんな存在になるかを自分は知っている」

 

「……どんな存在になるというんだ」

 

「アンタが殴り飛ばしたイルヴィーさ」

 

――馬鹿な。

 

モーリの放った言葉は、なぜか……岩男の一撃よりも重く身体に響いた気がした。

 

「そんな馬鹿な……事が……」

 

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