【正義……正義……?】
脳内でエコーが何か訴えかけるように言葉を出していた。
今までになかった反応だ。
「そう、正義だ」と俺は言う。モーリに?エコーに?あるいは自分自身に向かって言ったのかもしれなかった。
「正義とは……『種の繁栄に影響するかどうか』。それを基準に判断すべきだと考えている。人類にとって、一番正しいことは人類という種を繁栄させる事のはずだ。だから種の繁栄を脅かす存在は悪だ。それを排除する事が正義のはずだ」
「……ふふ……」
モーリは笑ったようだった。
「なるほど。だから……種の繁栄に貢献できない老人は守る必要がない、という事か」
「そうだ」
「不思議だな。そこまで真っ直ぐに言われると……腹も立たん。昔、貧しい国では病人や老人を口減らしに毒殺していたとも聞いた。
種全体という話なら、それは正しいんだろう。そもそも自然界では弱肉強食が摂理だ。弱い存在は淘汰される」
【……そんな正義は……クソだ……】
「――なんだと?」
俺は驚き、足を止めた。エコーが積極的に発言した事にもだが……その言葉に大きく驚いていた。
「どうした?」とモーリが振り返る。
「……エコーが……俺の担当者が……俺の言う正義を……クソだと言った」
「そうか。ならクソなのだろう」
「……待て、さっきあなたは俺の話を理解してくれたのではなかったか?」
「理解と肯定は違う」
「……肯定は、できない、と?」
「できんな。自分は酒が好きだ。煙草も。マリと暮らすようになって煙草はやめ、酒もひかえるようになったがね」
「俺は今酒や煙草の話はしてないはずだが?」
「どちらも人体には有害とされている。人類という種の繁栄を考慮するなら悪になるだろう」
――俺は数秒考え――返答した。
「その通りだ」
「だが自分にとってアレは古い友人でな。つき合いをやめる気はない」
「それはあなた方の科学でもただの“依存”なのだと判明しているはずだ」
「誰でも何かに、あるいは誰かに依存している。そうしないと生きていけない者もいる。もっとも――アンタに言わせたらそれは《弱者》なのかもしれないがね。
そう……アンタみたいに自分の価値観で他者を裁く人間が、どんな存在になるかを自分は知っている」
「……どんな存在になるというんだ」
「アンタが殴り飛ばしたイルヴィーさ」
――馬鹿な。
モーリの放った言葉は、なぜか……岩男の一撃よりも重く身体に響いた気がした。
「そんな馬鹿な……事が……」