第3章

第3章18ページ「Schwertkunst」

「そっか……君が……頭おかしいってイズちゃんが言ってた……モニターかぁ」

 

「うん、そう。それそれ。まぁ実のところお姉さん自体にはあんまり罪は無いんだけど……やっぱ、この場合はお姉さんに償ってもらうのが一番かなぁって思ってさ」

 

「罪って?」

 

「ボクはともかく、ボクの担当者君の悪口を言った罪、だね」

 

【え、めっちゃ漫画っぽいシチュでテンション上がるんだけど!いいじゃんいいじゃん!確かになんか感じ悪かったし!やっちゃおーぜ!】

 

「……って事で。くふふっ♪」

 

やがて、彼女は小馬鹿にしたような表情で口元をゆがめた。

 

「はーん……そーゆー感じの子ね。クソつまんない言いがかりだけど……面白そうだし、おーけーでーす」

 

す……っと流れるような動作で、彼女は木刀を身体の後ろに隠すように持つ。

確かあれは脇構えと言われる姿勢。現代剣道ではあまり見られない構えのはず。

 

「古流剣術……だっけ。確かに現代剣道でその構えをする人はあんまりいないだろうね。実戦……本当の斬り合いの時代ならではの剣術って事か」

 

【変な構えに見えるけど……あれ強いん?】

 

ボクの担当者様は本当に屈託無い。まぁ、そこが良いところだとボクは思うのだけど。

 

「面がガラ空きになるからね。剣道の試合だったら不利なんだけど……いざ斬り合いって事なら話は別なんだよ。ああやって刀を体の後ろに隠されると太刀筋が分らなくなる。一太刀でも浴びたら死亡する斬り合いの世界では最初の一合目が最重要だったりするんだよね」

 

「何、君。剣術かじってる系?」

 

「かじってるっていうか極めてるかな。前々世では剣聖とも呼ばれてたし。あぁでも剣は使わないから安心して?ボクが剣振るったら一瞬で終わるってのもあるけど、今回の人生ではなるべく一般人である自分を楽しみながら――」

 

――速い。

 

話している最中も特に油断はしていない。が……それでも話を中断せざるを得ないほどの速さで彼女はボクの間合いに侵入してきた。

 

速度以上に予備動作がまるで無かった事も評価するべきだ。

力みを全く感じさせないこの脱力は、かなりの達人でないと持ち得ない技術。

 

まるで滑るように床を――いや――っていうか走ってすらいないというか、足が動いてすらいないじゃないか?

 

「――せぇっ!!」

 

「っと……あらら……呪符を斬られちゃったか……」

 

紙一重で避けたつもりだったが、彼女の太刀筋は想定以上に鋭く……身体にこそ当たらなかったものの、右手に持っていた呪符を切り飛ばされてしまった。

 

「ちなみに……今のは当てるつもりなら右手を砕いてたよ?かじってる系のボク」

 

「挑発返しか……けっこう血の気多いんだね、お姉さん。それに……その剣術、確かに凄い。初見だと絶対騙されるんじゃないかな」

 

【え?騙される……って?】

 

ボクは紙切れになった呪符を部屋に投げる。ひらひらとそれらは舞い、倒れている盲羅達へと降り注いだ。

 

「今凄い速さでこっちに向かってきたけど……実はこのお姉さんは走ってないし、足を動かしてすらいない。動いたのは――お姉さんを移動させたのは――その木刀、なんだろう?」

 

「……そこまで察したのは君が初めてだけど……ヨッシーといる時の事も見られてたんだもんね?」

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