【うわー……こっちからだと何がなんだかわかんないけど、すっげー!】
「あーそうか……ちゃんと見えるように戦わないとつまんないよね。ごめんごめん」
「……くっ……」
ボクは振り返り、背後に回っていたお姉さんに向き直る。
さらに苦しそうに息を吐く彼女を見ると……どうしたもんかなぁとは思ってしまうんだけど……。
「さっきの訂正に付け加えると……ボクが呪符魔術を使うのはね、そうしないと手加減が難しいからなんだよ。普通に魔術を使うとどうも威力が出過ぎちゃって……だから……あっさり死なないでね?ウル……ドルン……イス……《アバリスの投げ矢》」
定められた認証ルーンに従い、ボクの周囲にいくつもの鋭い氷柱が出現する。
危険を察知した彼女が後方に跳んだのを確認し――ボクが手を振り下ろすと、氷柱は一斉に彼女へと飛来した。
【わぁああ!なんじゃこりゃ!!】
「アバリスの投げ矢。その特性を与えた魔術だから……飛んでいく魔矢は未来を予測し、目標へと自動的に進路を変更して到達するんだよ」
【すげえ!ホーミングってやつか!】
「その通り。くふふっ♪」
そんな話をしている間にも氷柱は彼女を追い、その美しい身体に刺さろうと試みる。
それを木刀で叩き伏せる技量は……木刀の力だけでも無いんだろう。彼女自体もかなりの遣い手なのだと想定できる。
が――この場合は相手が悪すぎた。相手って、つまりボクなんだけど。
「――あああっ!!」
かわしきれなかった氷柱が彼女に激突する――が、どうやら寸前で木刀が間に入ってかばったらしい。
直撃こそまぬがれたものの、衝撃で吹き飛び、彼女は壁に激突した。
――ああ――そうか――。
ぐったりとした彼女と額に浮く汗を見て、ようやく思い出す。
「あーごめんごめん、忘れてたよ。そーいやお姉さんイグラムール……だっけ……?あの怪物の毒に犯されてたんだったね。あとお腹も銃で撃たれてたっけ」
「……は……それが……」
「治してあげるよ」
「……え……?」
ボクは壁際に崩れ落ちた彼女に近づき右手をかざす。
自動的にボクの眼がその体内の異物を感知し、それのみを排出する《斥力》を発生させる。
数秒で、それらは彼女の体内から消え去った。同時に自己治癒能力を高め、腹部の傷も完治させる。
さりげなくやってみたけど、これを同時に、しかもこの短時間で行えるのはボクくらいのものだろう。
「……マジ……っスか……」
「マジっスよ。さて、元気になった?じゃあ、もう一回やる?」
「……う……」
にっこり微笑みかけるボクと対照的に彼女の瞳に絶望の色が浮かぶのが分かった。
……いいね……なんだろう……悪役って……やってみると、けっこうゾクゾクするし、クセになりそうな快感がある。