第3章

第3章25ページ「Distanz」

ヨッシーが叫びながら壁を指さし――その瞬間、爆音と共にその壁が吹き飛んで――それは現れた。

 

グゥオオオオオオオオオーーッ!!!!

 

「……はっ……こりゃ、ダメだ。間近で見ると確かに”逃げる”しか選択したくなくなるな……」

 

そこに立っていたのは圧縮された恐怖そのものだった。

その存在がそこにあるだけで……地面がそちらに傾いたような錯覚すら起こす。

 

なんという圧倒的な気配……。

 

「全員!床をねらええええ!!!変われるもんは変わってええ!!床を崩して落とすんじゃあっ!!!」

 

「退避っ!!退避よっ!!正面に立つな!!距離をとって!!」

 

ヌマタとイルヴィーがほぼ同時に指示を飛ばす。その速さと的確さは賞賛に値したかもしれない。

 

イルヴィーの部下達は広がりながら威嚇射撃を開始し、盲羅の何人かは異形のモンスターに変身して対応を開始する。

 

が……それでも追いつかないほどの戦力差が存在するようだった。

 

「ぎゃっ――!!」

 

ハンターが無造作に振るった腕で何人もが吹き飛ばされていく。

 

「離れて!!離れるのよっ!!!」

 

イルヴィーはそう言うが、そもそもそれほどスペースもない上に、盲羅とイルヴィー達の双方がわさわさいる状況だ。離れろと言われても難しいだろう。

 

牢獄の中で放り込まれた獣から逃げ回るに等しい。

 

――ここがチャンスかもしれないねぇ。

 

「なんて事してくれたんだ!!君がおひかりなんて持ってるからあんな奴が来たんだろうがっ!!」

 

「……へっ!?いや、俺は……」

 

私はヨッシーにつかみかかり、その胸ぐらをつかみあげて振り回す。

突然の事にヨッシーは目を白黒させた。

 

「お前なんか助けに来るんじゃなかったよっ!!!」

 

慌てふためくヨッシーに有無を言わせず――私はイルヴィーとマリのいる方角へとヨッシーを突き飛ばした。

 

「――わわっ!!」「きゃっ!」「何ー!何よ!!」

 

ぶつかりよろめいた3人に走り寄りながら――拳を握る。狙いはもちろん――

 

その瞬間、イルヴィーも迫る私に気づいたようだった。

 

「ちょ――待っ――鼻はもうやめ――!!」

 

「アラタパンチ!!!」

 

「ぎゃんっ!!」

 

なるほど。叫びながら殴るとなかなか爽快だ。

別に正義は感じないが。

 

【うわー……もう鼻なくなるんじゃない、その人……】

 

「鼻もちならない奴……ってね。まさに言葉通りじゃないか」

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