すっと立ち上がった。
その動作は流れるように淀みがなく、たったそれだけの動作からでも相当の実力者であろう事が察せられた。
「じゃあ、こう言ってあげる。抵抗しないならお兄さんも、ここのお姉さんも他のみんなも全て殺す。
そして優勝者のご褒美でもらえるお願い?それで全人類の滅亡を願う事にするよ。
どうかな?やる気出た?その進んだ文明とやらでボクを止めてみてよ」
「……悪と判断する」
そう言った俺に対し、左手で招くようなしぐさを見せ、妖艶とも言える表情で笑う。
「キックが得意なんだっけ?1発目だけくらってあげる」
「なら――1発で終わりだ」
床を蹴り、俺は部屋の中を疾走した。
そして、力を込めた蹴りを目標の腹部に向けて放つ。
「ライダ――キィイイイッック!!」
「ぐっ――!」
目標の身体周囲に張られていた力場を貫き、それは完全に命中した。
目標は窓へ吹き飛び、そして窓ガラスを破壊しながら暗い宙へと落下していく。
「殺すなと言っていたな八神改。やはりそれは間違っているはずだ」
聞いているはずの八神改にそう伝えた。
悪のために考慮するその行為自体が余計な労力でしかない。
「――残心っ!!」
少女が叫ぶ。残心?武道用語だ。敵を倒した後も警戒を怠るなという心得の事で――
「――!!」
背後からの一撃を俺はかろうじて腕で受ける。重い――!
こんな小柄な体格の者から繰り出された蹴りとは思えないほどに。
「空も~飛べ~るはず~♪……ってね。魔法使いなんだよ?窓から落としたくらいでボクを倒せるとでも思ったの?」
「問題なのはその耐久性のほうだ」
「あぁ、ちょっと痛かったよ。まさかアグラの防壁をあんなに簡単に破るなんてね。ビックリした。……おかげで龍の因子が発動しちゃったもん。
この状態になるとボクの身体、ドラゴンの3分の1程度の強度になるんだよね。
だから……せっかくだし……」
転生鳴浪は自身の両手を後ろに回すと背中で組み、奇妙な構えをした。
「徒手格闘でやろうか。でも、ハンデは必要だろうから腕使わずに相手してあげる」
「……その行動の理由がよく分からない。だが、特に理由を知る必要もないな」
再度踏み込み、拳を放つ。
その俺の拳を転生鳴浪は上体の振りだけでかわすと、するりと俺のふところに入り込み、肩を俺の胸付近に密着させる。
……なんだ?