「ぐっ!!ごっ……ぐぁあああああ!!!」
不可視の力が身体に加えられ――腰のベルトを力づくで引きちぎろうとしているようだった。
無駄……と、言葉に出す事すらできない。
これほどの力を加えられ続けたら――いずれ俺の身体は引きちぎれるだろう。
「まったく……えらく頑丈なベルトだなぁ……イライラさせてくれる……。言っとくけど、ボクはまだ本気出してないんだからね?おにーさんの身体が千切れないように、あえて優しく引っ張ってるんだから」
「――ごっ……う……」
「はぁ……でも、面倒くさくなってきたなぁ。もう全力でやってしまおうか……って……あれ?なんだい?おじいさん。そこに来たら危ないよ?」
……モーリ……?
身を隠していたはずのモーリがなぜか……俺の目の前で背中を見せ、両手を広げて立っていた。
「割り込んですまない。自分は彼に借りのある人間だ。……無理を承知でお願いする。どうか……もう、やめてもらえないだろうか」
俺と転生鳴浪の間に立ったモーリは、そんな訴えをし始める。
「馬鹿な。そんな、借りなど……無いと……」
「自分が勝手に感じている事だ」
転生鳴浪は驚いたように目を丸くしていたが……やがて思案気に手でアゴを触った。
「うーん……なるほどー……悪役に慣れてないと迷うなぁ。どうしよっかなー……」
「あなたの実力は、自分含めてここにいる全員が把握したと思う。もう許してあげてほしい」
「何を勝手な事を……俺は……正義を執行するまでは……」
「そうだねぇ……そのおにーさんはまだ全然分かってなさそうだもんねぇ……あ、そうだ……くふふっ♪」
ふっと転生鳴浪は……モーリに人差し指を向ける。その指の先に――青白い炎が揺らめいた。
「そう言えば……正義の味方は誰かを救う時に最も力を発揮する……ってのがセオリーなんじゃなかったかな?ボクが勇者やってた頃はちゃんとその役目をやってたよ?」
「何の……つもりだ……。その行動の理由が……分から、ない……」
「何のつもりって、盛り上げるつもりだってば。ほらほら、おにーさんが本気出さないと……ボクの火炎呪でこのおじーさんは丸焦げになっちゃうよ?」
……意味の無い事を。
「さっきの……モニタリングを見ていた、はず……だ。俺は……その男を……守る、つもりが……な……い……」
「ふーん……?ねえ、おじーさん。こんな事言ってるんだけど……どうしよっか?おじーさんからもこの変なセイギノミカタおにーさんに頼んでみたら?」
その問いかけに対し――モーリは、薄く笑ったようだった。
「さっきも言ったはずだ。別に自分はかまわない。この身一つでこの場が収まるなら好きにしたらいい。ただ……一つだけ約束してほしい。あの子を……マリを……この世界が終わるまで……守ってほしい。ダメか?」
言いながらモーリはこちらへ振り向き、真っすぐに俺の目を見つめながらそう言った。
「……それは……」