その言葉よりも先に高い音をたてながらハンターを覆っていた氷は全て割れて砕け散った。
そして再び何事もなかったかのように前進を始める。
「と……いう事だ」
「はー……なるほどなるほど。流石はラスボスって事かー。じゃあしょうがない。もう少し本気を出すよ」
転生鳴浪は上唇を舌でなめ――そして、ポケットから取り出した筒から空中に何かの液体を浮かべると、それを指でつついて円状に広げていく。
警戒に値する速さと正確さで空中に図形と文字を描いていった。
「わ……魔法陣……ってやつ?すっご、実物初めて見た……」
俺の右手に抱えられながら少女が感嘆の声を上げたが……実際のところ空中に広がっていくあの物質のほうが問題だろう。
あれはまさか――
「……この世界で哲学者の石と呼ばれる素材か。それを扱う者がいたとは……」
「よく知ってるじゃない、おにーさん。そう、錬金術師の究極の目的とか言われてるものさ。黄金に変わるだの不老不死になれるだの色々言われているけど……その正体は普通の道具ではけっして作り出せない魔法式を描く道具……というのが正解なんだよ。
まぁ魔法の絵の具セットってやつ?」
軽口を叩きながらその手は淀みなく空中に複雑な紋様を描いていった。そして、部屋全体に不穏すぎる気配が充満していく。
おそらく――かなりの高エネルギーをこの空間に呼び込んでいるのだろう。
「――行くぞ」
それだけでモーリには通じたようだった。
俺はモーリを少女と反対側に抱え上げると、地を蹴り部屋を飛び出す。
チラッと転生鳴浪はこちらを見たが、特に追いかけては来ないようだった。
いや、来れないだろう。あの作業に集中している間は動けないはずだ。
おそらく数秒後に――あの部屋に恐ろしい現象が発生する。
それに巻き込まれないためにはもう少し距離を――
【――モニタリングを終了します】
【――モニタリングを開始します。テンショウナナミ】