【わ!な、なんだー!?】
何が起こったのか分からずボクは≪結界≫を意味するルーンを叫ぶ。
「……ごふっ……ふぁ……何これ……血……?」
紅に染まる視界が戻ってくる。ぬるっとした感触が口元に伝い、ボクはそれを手でぬぐった。
天井……床……?え?ボクは……床に倒れてるの?
ぐらぐらに揺れる頭をどうにか起こして立ち上がると、そこに見えたのは――
【え……あれ……動いてる……じゃん……】
ピシピシ、と……何かが裂ける音が聞こえる。
ボクの魔法で停止していたはずの黒い影に亀裂が入っていき……やがて、卵の殻を破るかのように黒い影を割ってハンターが出てきた。
つまり……つまり?ボクは……ハンターに殴り飛ばされた?
いや……いやいや……ちょっと、そんな馬鹿な。
「うぶっ……嘘だ……ふざけるな」
口の中いっぱいに広がった鉄の味を床に吐き捨てながらボクはハンターを睨んだ。
もういつぶりかも記憶にないくらい久しぶりな負傷も、鼻血も、そんな事は別にどうでもよかった。
親にも殴られた事が無いだとか、そんな箱入りお嬢様なんかじゃない。
百の戦争、千の敵、万の刃の下を潜り抜けてきたんだ。今さらこんな事で動揺しないさ。
でも――これはおかしいだろう。あってはいけない事だろう。
「ボクの魔法は間違いなく発動した……お前……何を……?」
【えっと……魔法無効体質とか?】
「ありえない!!!」
【わ!?】
「魔法っていうのは世界を構成しているシステムそのものの力なんだ。それを無効化できるわけがない!
もしそんな事ができるとしたら、それこそそいつも魔法を――」
と、言いながらボクは気づいた。
そうか……つまりアイツもこっち側の存在だったという事か。
肉体派の外見に騙されたけど、魔法使い……しかもかなり高位の魔法技術を持った相手だったとしたら納得できる。
フードの中の顔が見えないのも何かの遮蔽呪文を駆使していたって事か。
なるほどなるほど……いけないいけない……つい頭に血が上ってしまったよ。
タネが割れたらなんて事はない……けど……このボクの頭に血を上らせるだとか……それはもう……。
「くふふ……万死に……値するねぇ……」
ボクは再度胸ポケットから特製フラスコから賢者の石を取り出し、空中に魔法式を描いていった。
【お、おい……逃げなくて平気かよ……?】
「心配ないよ、もうカラクリは分かった。アイツも魔法使いだったってだけさ。たぶんボクが作りだしたクロノスタシスのエネルギー丸ごと転移させるか何かして対処したんだろう」