【え……そう……なのか……?】
「うん。それ以外に説明つかないからね。でも……今度のはそんな事はできない……エネルギーをぶつけるんじゃなくて……空間そのものからぶった斬ってやるからさ!!!」
余裕のつもりなのか、ハンターはまるで動じる様子もなくゆっくりとこちらへ近づいてくる。
ゆっくりと……。
それがさらにボクの体温を1度上昇させる。その大物ぶった態度ごと……時空の彼方へ……吹き飛んで行けばいい!!
「ゆがめぇええええええーーーっ!!!」
【わぁああっ!?これ……へ、部屋が歪んでる!?」
この空間の魔力はさきほどの位相変換の影響が残っている。
時空が帯びた曲率を極端に加速させ――制御ではなく崩壊へと導く魔法。
時空そのものに亀裂を生じさせ、その亀裂に巻き込まれた者はどんな存在であろうが絶対にちぎれて弾け飛ぶ。
この魔法に名前はまだ無い。
暴走させる、だなんてそもそも術とも法とも呼べないし……危険すぎてボク自身一度も使った事がなかったからだ。
「おめでと……ボクの初めてをあげるね」
むしろ優しい微笑みでボクはそう伝える。そうさ。光栄に思えばいい。
「で……さっさと死んじゃえ!!」
そして世界そのものに走った歪みは可視化できるほどに膨れ上がり――やがて、音もなく亀裂を作った。
その亀裂はハンターへと真っすぐに走っていく。
――が――?
「…………うえ……?ちょ……」
ハンターはそのままボクへの直進を止めず……なんと……無造作にその亀裂を払い除け……た。
いや……待て……待て、待て、待て、待て、待て……
「待てよぉぉおおおおーーーーっ!!――うぎゃっ!!」
ハンターはまたも大振りな拳を繰り出し――しかし、式を発動中のボクはそれを避ける事ができない。
まともに腹部にくらい、ボクは吹き飛んで部屋の壁に叩きつけられた。
嘘……だ……こんな事……あり得るはずが……ない……。
【お、おい……だい……じょうぶ、か……?】
「かっ……ぁ……ふっ……」
床に転がりながら、視界の端にとらえたハンターは……何事もなかったかのように再びボクへと歩みを進めてくる。
――――!!
痛みにもがきながら、ボクは自分の白シャツを引きちぎった。
左肩に仕込んでいた魔術刻印に自分の血を塗り、発動させる。
「……ソゥ……ガラ……」
緊急避難用の転移魔術。1度きりしか使えず、乱暴な転移で、身体に負担もかかり……何より不様。
絶対に使う事は無いと思って……いたのに……。
やがて身体を引き裂かれるような痛みとともに――ボクの視界はにじんでホワイトアウトした。
【――モニタリングを終了します】