第4章

第4章12ページ「Spiegel」

【――モニタリングを開始します。ヤガミアラタ】

 

「ここここらぁ!ききき聞いて聞いて聞いているいるのか!?」

「……っと……いや……」

 

顔を真っ赤にしたゼン教授が迫ってくる。正直に言うとあちらのモニタリングが気になってあまり聞いちゃいなかった。

横目で見ると、ヨッシーも同じくだったようだ。

 

【あれ……ここ?どこ?……部屋……じゃなくって……車の中?】

 

そしてレコードにいたっては、今モニタリングが回ってきたばかりで当然状況が分かってない。

ま……ここは私が説明役に回るべきかねぇ。

 

「あーー……ちょっと我々は乗り物酔いしやすい体質でね。すこーし頭と思考がダンスしてたんだが……あぁ、もう大丈夫大丈夫!……まぁでもついでだからもう一度状況を整理しておこうか、つまりこうだろう?我々は今――」

 

我々は今、バスの中に座って会話をしている。

積みあがったゴミの山をかいくぐるようにして進む大型バス。それはこのゼン教授夫妻の自家用車なのだそうだ。

しかも自家用という文字どおりこのバスの中を改造してそのまま家として使っているらしい。

全ての家具をこのゴミ山から収集したというのだから……いやはや大したものだ。

だが、それでいてゼン夫人――ノーラ、というお名前の奥さんらしいが――

この奥さんは綺麗好きな方らしく、車内はそれなりにキチンを整頓されており、掃除もこまめ行なわれているようだった。

 

そして何をしているのかと言えば……そのノーラ夫人の運転するこの車で、私達は「ウユとララ」と呼ばれている謎の双子の元に向かっている。

驚いた事にこのゼン教授というのは以前からウユとララという双子の事をずーっと研究していたお方らしい。

それ自体はまさに降ってわいた幸運だったわけだが……

ゼン教授いわく、その双子さんには、試練とやらを受けて合格しないと面会もできないのだとか。

 

面倒臭い話なのだが――さらに困ったのは、このゼン教授がやたらと「口下手」という点だった。

どもり口調な上に興奮すると話があっちこっちに飛んでわけが分からなくなる。

 

どうやら何か大切な事を教えようとしてくれてるようなのだが……どうしたもんだかね、これは。

 

「つつつつまりつまり!か、かがみ!かがみこそが答えにいたる手がかかりだっただったのだよ!!」

「あーー……鏡。それはアレですよね。自分の姿が映る、身だしなみとかに使うあの――」

「そそそそうだがだが違う違う違うとも言え言える!つまりつまり……」

「対になる存在、その広がりを示す道。鏡にはその役目もある。だから……とある国の言語では鏡を各務(かがみ)とも呼んでいる」

 

ふと、運転席からスッキリとした声で説明が届いた。ノーラ夫人だ。

 

「はっ!お腹の足しにもなりゃしない話だけどね。あんまり繰り返し聞いたもんだから憶えちゃったよ」

「いいい今わしわしがそそそそれそれを――」

「ああああ、でも俺!!!なんか学校でも教授って名前の人から授業聞くの苦手で!!ノーラさんからも聞いてみたい!……ような……気が……しました……」

 

手をあげてそう言ったヨッシーはわりとファインプレーだったと思う。

マリなんかもうとっくに聞くのを放棄して座席で爆睡している状態だ。

なのでその場を代表する形で私はありがたくノーラ夫人にお伺いをたてた。

 

「じゃ、夫人からもお聞きしていいですかね?その鏡……ってのがなんか重要なんですか?」

 

運転席で真っすぐ前を見据えるノーラ夫人。

その背筋はすっと伸びていて……なんだろう……何か凛々しさすら感じる佇まいだった。

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