【――モニタリングを開始します。シラキコタツ】
「目を閉じるべきだ」
「……え?なんで?」
そう返したあたしに、不愛想な表情のままヒーローは「モニタリングが来たのだろう?この場所の情報が伝わる」とだけつぶやいた。こっちを見返しもせずに。
……なんかイラっとするので、従わない事にした。
「伝わって困るような事ある?ビルの空き部屋にいるってだけだし」
あの戦闘の後――あたしとおじいさんを両手に抱えながらこのヒーローは走り、おじいさんの指示に従って、ビルの中にあったこの空き部屋に潜む事になった。
おじいさんはこの辺りのビルにもわりと詳しいらしく、この部屋も使われていない部屋の1つらしい。
「……転生鳴浪は位置情報探知ができる。そして、移動も速いだろう。
襲撃された時にこの部屋の間取りなどを知られていないほうが有利だ。逆にそれらが不明な場合は様子を見てすぐには来ないかもしれない」
「はっ上等じゃん。来るなら来たらいいし!リベンジするし!!」
あれだけ恥ずかしい事をされまくって許せるはずがない。
倍……いや10倍くらいは返したいところだ。
……が、拳を握って燃えるあたしをよそに変態ヒーロー(もう変態でいいやこんな奴)は冷徹に返してくる。
「実力差を正確に把握できてないな。君では勝てない。俺に任せるべきだ」
「あんただってボコされてたじゃん、変態ヒーロー」
「俺は変身した事はあるがそれは変態とは言わないはずだ。君は日本人のようだが日本語の習得が不十分なのか?あるいは知能の発達が不十分なのだろうか。
先程の言動からもその疑いはあるが」
「ケンカ売ってんなら買うよ?変態ヒーロー」
【買っちゃえ買っちゃえ!大体正義の味方だとかなんとか言ってたけど、全然ダメダメヨワヨワだったじゃないですかー!
そもそもなんでシャツ着てないのか分かんないし、てぃくび丸出しでえらそーにしてるな!変態!!そっちのほうが知能の発達以前にオツムのパーツが足りてないぞー!かかってこーい!】
イズちゃんのその言葉はちょっと言い過ぎの気もするけど、まぁ良しと思った。
――が、それに対して変態ヒーローは淡々とこう返してくる。
「君の担当者か。文法も表現も稚拙だ。それでは相手は怒りよりも不愉快さを感じるだろう。その声も少し耳障りな響きがあるな。
育った環境が影響しているのかもしれないが、あらためたほうがいい」
「おぅ、待てやこらぁ……イズちゃんの悪口言ってんじゃねーぞ」
ぐわっと体内の血流が昇ってくるのを感じた。
嫌いだ。こんな風に……他人のコンプレックスにガサツな触れ方をする人間が。
他はどうあれ、そこは見過ごせない。
あたしが木刀の又三郎を構えたのを見て、変態ヒーローは立ち上がった。
「道理の通じない人間はしばしば悪に走る。君もそうか白木こたつ。話が通じる相手でないのなら――」
「やめてくれないか」
一触即発の空気の中、声を上げたのは……たしかモーリって名前のおじいさんだった。
そのままあたし達の間に割って入り、変態ヒーローそして……あたしの目をじっとのぞきこんでくる。
――とても静かで、深海を思わせるような瞳をしていた。……なんだろう……こんな目を……あたしはどこかで見た気がする。