「必要以上に大声を上げたり、誰かを傷つけたいと思う時は――気をつけたほうがいい。そういった時はその人自身のほうが深く傷ついている事が多いのだから」
「ん……んんー……」
あたしは、はぁっと息を吐いた。そうか、分かった。コジローに似てるのか。
あたしには昔……こんな感じで優しく諭してくれる弟が……いた。
血の気が多すぎるってよく言われてたっけ。
「わーかったぁ……。ぶっちゃけ又三郎付きで戦って負けたの初めてだったからさー。ちょっとイライラしてたし、八つ当たり気味だったかも。無しっこにする」
そう言うとモーリはふっと微笑した。
「それはあなたの強さの1つだろう。素直に負けを認め、なお前を向ける者はどこまでも強くなれる。自分にはもう無い強さだ」
「え、いや……そんな大げさなもんじゃ……」
「いや、なかなか難しいのだよ。特に歳をとって頭が固くなったり、自分の強さに自信がありすぎたりするとね。……そう思わないかユウダイさん」
モーリがそう話をふると、変態ヒーローはわずかに眉をしかめた。
「一般論としては同意する。しかし俺は冷静に判断しているし、特に心身に異常をきたすほど傷ついてもいない」
「そうだな。傷ついているのは身体や心ではないのかもしれんな」
「……では何だというんだ?」
「さてな。……ただ、それは他人から決めつけられて気持ちのいいものではないだろう。
だから……そんな者が店に来たらそっと酒を注ぐのさ。それが自分の仕事だ。今は職務放棄中だがね」
「あなたの言う事は難しい」
「じゃ、あたしが横からズバッと言うけど。傷ついてんのはプライドって話じゃん?」
あたしがそう言うと、ヒーローは素で怪訝そうな顔をした。
あぁ……これはアレなのか……本当に天然さんなのか。じゃ、もういいや。
「……プライド?それは正義と何も関係が――」
「だーかーらー。その正義のプライドってのが傷ついたんじゃないの?って話をしてるんだよ。まったくー。
よく分かんないけど、ライライはそれを一番大事にして生きてるんでしょ?」
「……ライライ……というのは俺の事か?」
「うん、変態ヒーローってのも長くて呼びにくいしライライで良くない?
イライラの反対だし、なんか可愛ーっしょ」
「……君の言う事も難しい」
「ま、そんなもんじゃない?自分以外の誰かが考えてる事なんてワケわかんなくて当たり前だし。でも――っていうか、だから――」
あたしはそばの壁についているコンセントを思いっきり……蹴とばす。
「――面白いし、燃えるんじゃん」