あたしが蹴り上げたコンセントは壁ごとえぐれて転がる。その裏側には……コードに混じって小さな機械のようなものが付いていた。
「……なんだ?」
「小型カメラと盗聴器ってとこだと思うよ。たぶん。又三郎が教えてくれたんだ。
こんな低い位置から撮影されちゃったらお尻見えちゃうじゃん、まったく」
「なんだと?……なんでこんな場所にそんなものが……」
モーリが驚く。その反応を見る限り本当に知らなかったようだ。まぁ別に疑ってないけど。
「んー……盲羅って奴らのかもね。実はあいつらの事務所にもこれと同じものがいくつかあったから」
「……君とその固形物生命体の知能を低く考えすぎていたようだ。よく気づいたな。俺は気づけなかった」
「はぁ?またカチーン!ゆーるー……す!!ライライ天然ぽいし、もういいや!
ほら、あたし可愛いじゃん。だから前に学校で盗撮されかけた事があってさ。それ以来又三郎がそういう怪しいとこはチェックしてくれるようになったんだよね」
【ひゃー!自分で可愛いって言えちゃうあたりがステキです……】
「なんでこんな場所を……ここはただの空き部屋のはずなのに……」
モーリの言葉にライライが何か深刻っぽい顔をした。
「……何でも叶う願い……か。正直に言うと俺は最初それほど大した代物だとは思っていなかった。この世界の文明でそんな事ができるわけはない、と。だが――」
そう言いながらライライは首を振る。なんというか……天然だと理解したら気にならなくなったけど……こいつはこいつで人をイラつかせる天才かもしれないと思う。
文明レベルでディスってんじゃないよ。
そりゃあの魔法使いもイラつくわ。
「――少し認識をあらためる必要があるようだ。あのターゲットの力は尋常ではないし……盲羅と呼ばれる集団にも底知れないものを感じる。
八神改達への監視体制といい、この仕掛けといい……ただの反社会的組織の範囲を超えた動き方だ。それだけの何かがこの騒動の裏にはあるという事か」
「盲羅達の目的は……全生命の活動を停止させる事であり、この世界全ての崩壊だからだ。
それを本気で実行しようとしているし、そのためならどんな犠牲もいとわないだろう。そして……”逢”にはその途方もない願いすら叶える力がある」
ごく自然な感じでモーリがとんでもない事を言った。
マジっこで?そんな奴ら子供向けのアニメでしか見たことないんですけど。
「それが本当なら……これ以上はないほどの悪、という事だな。俺の敵という事になる」
「いや誰にとっても敵以外の何ものでもないじゃん!何それ超迷惑なんですけど!
なんでそんなハタ迷惑な奴らが存在するわけ?」
「彼らは憂いの沼に呑まれた者達だ。あの沼には【全ての絶望】があると言われている。おそらく……何かをそこで彼らは知ってしまったのかもしれないな。
知るべきではない、何かを……」
「……あなたも、色んな事を知っているようだな。なぜだ?」
ライライの言葉にふっとモーリは悲し気な目をした。
「……長く生き……色んな場所に行った事がある。それだけの事だ」
……うーーーーん……。盲羅やら”逢”やら……。
何やら色々小難しい。
あたしはやっぱりあれこれ考えるのは苦手だ。
「じゃあ……あたしはこれからどうしよっかなー……。あ、そうだ……」
そこでふっとあたしはさっきまで見ていたヨッシー達のモニタリングを思い出した。そーいや、なんかヨッシーが嬉しい事言ってくれてたっけ。
「ヨッシーから期待されちゃってたんだったあたし。
なんとかおばさんの解毒をさせてほしい……とか。
しょうがないなーヨッシーに期待されちゃってるんなら、やるしかないよね。
かなーり無理めだけどー。おひかりの少年に期待されちゃってるんだもん、ふふふ」
「……それは君には達成不可能なミッションだろう。
それに……おひかりの少年と君が呼ぶ彼は……世界の主役では無いと言われていたようだったが……」
【あ、そうですよね。ウユとララさんって人達がそんな事言ってましたよね。
第一あのキモい魔法使いのとこに行ったらまた恥ずかしい事されちゃうんじゃ……】
「……その人が誰なのかを決めるのはいつだってあたしなんだよ」
【……え?】