アラタはなんだか意味ありげにニヤリと笑った。
「誰かに特別に思ってもらえてるなら、それは充分特別な存在なんだよ。あんな可愛い子の特別になれてるなんて幸せな事じゃないか」
「ちょ――っ!ちが……たぶん、こたつは何かまだ勘違いしてるだけで……」
「人と人との関係なんて勘違いから始まるものさ。そして勘違いであっても誰かに期待されてるってのは悪い事じゃない。
ま――さしあたり私もウユララさんに何かを勘違いされてるようなので?
その期待も裏切らないですむ事を願うけどね」
そう言ってアラタは前方を指さした。
「行き止まり……だな。どうやらここが試練の間ってやつか」
何かの石でできている……のだろうか?神殿の内部のようにも見える……薄い灰色の床とほのかに青く光る壁に囲まれた広間。
学校の体育館程度の広さがあるようだった。
前方にはまたしても大きな鏡。俺達3人の姿が映し出されている。
「なんか……こ、怖いね」
マリが身震いし、辺りを見回す。「試練って……何するんだろ……」
その時――例によってどこからともなく一人とも大勢とも聞こえる不思議な女性の声が響いた。
『あなた方の目的とその力量に応じて試練は現れます。それは、あなた方にとって、とても困難なものでなければならない。多くの場合、そう望まれています』
「……望まれている?」
『それを求めている者が誰もいなかったとしても。いえ、おそらくは求められているのでしょうね。今は気づけないだけで。それはどちらが先という話では無いのでしょう』
……やべえ。意味が100わからねえ。
「ちょっと……まさかそのよく分からない言葉の意味を解けとかそういう――ん――?
なんだ……アレ……動いてるよな?私の見間違いじゃないよな?」
アラタがぎょっとしたように、巨大な鏡を指さす。
そこに映っているのはもちろん俺達3人。が……《俺》が腰から銃を取り出して……こっちに歩いてくる!?
俺は一歩も動いてないのに。
「わぁあああ!!あた、あたしも動きだしたー!!怖いヨーーー!!」
俺だけじゃなく、アラタとマリも動き出したようだった。その目はどこか虚ろで……しかしハッキリと見て取れる敵意を感じる。
「ま、まさか……これが試練?アニメとかで見たことあるやつじゃん。自分の分身と戦うやつ。そんなベタな――」
「――そんなベタなやつを見ていてさ、思わなかったかい?私には昔から考えていた解決策があるんだよなぁ――」
アラタはニヤッと笑うと「探偵アラタが教えよう」とか言いながら拳を振りかぶって鏡に走り出した。
ええ!?
「――鏡から分身が出てくるんならさ!出てくる前に――殴って鏡を割っちゃえばいいのさ!」