「何度も……この目で見た事だから」
「でも……それとこれとは……と言っても……クソ、そのプランに乗るしかないのか」
「あぁ。だから……とにかくさっき言った角度をキープできるようにしながら……俺を、見ててほしい」
そう言いながら、その瞳は次第に焦点を失っていく。
何かイメージの世界に没入しているように見えた。
一流のアスリートが競技前に集中力を極限まで高めるように。
全く正気の沙汰じゃない。
だが……銃を構えたヨッシーの分身達を先頭に、私やマリの分身達までジリジリとこちらに近づいて来ている。
このままだとなすすべなく殺されるだろう。
……やるしかない……か。
私が覚悟を決め、頷くと……ヨッシーは頷き返し……目を閉じた。
そしてなんと、目を閉じたまま銃を構え……そのまま岩陰から飛び出して発砲する。
ヨッシーが放った一条の閃光は見事に一番近くまで近寄っていた分身ヨッシーへと命中した。
「わ……凄い……!」
「マリは隠れてるんだ!」
言葉だけマリに投げかける。
そう……私はヨッシーの背中から、決して目を離すわけにはいかない。
こちらに背を向けたまま、ヨッシーが左手の親指を上げてみせた。
が、そのまま流れるような動作で前方へ射撃ーー同時に敵の銃撃を右へバックステップでかわしーーさっき倒した分身から銃を奪って、左手に構えて再射撃ーー!
この動きを……目を閉じたままやっている……というのか……本当に……!?
まるで見えているように……いやそれ以上の動き。
まぁ……実際には『見えている』わけではあるが……。
私の視点から。
『視点位置ってかなり重要なんだ』
そうヨッシーは言った。
リアルな位置の視点は得られる情報も少ないし、苦手なのだと。
私も少しだけゲームの経験はある。
確かにリアルな視点でプレイするよりも『キャラクターを少し離れた場所から見てる視点』でプレイしたほうがゲームをやりやすかった。
だが……まさか……それを[現実で]実行するだなんて……。
おそらくそれほどの自信があるって事なのだろう。
プレイヤー……アトレーユとしての自分に。
『最初は友達にからかわれたんだよ。阿藤令由ってさ、アトレーユって読めるなって』
そしてそれがゲームのプレイヤー名となり、もう一人の彼になったという事か。
だが、それにしたって……。